謎が解けると思った矢先に新たな謎が

しかし、自閉スペクトラム症の人では人が発する社会的手がかりへの注意、人への注目に弱さがあり、そのために人との自然なやり取りが十分に維持されず「暗黙の知識・ルール」が獲得しにくくなっています。

そして、社会的手がかりへの注意・人への注目・共同注意・意図理解などの弱さは、社会的ルールに従って行動することにも影響を及ぼします。「相手の雰囲気を感じ取って、ことば遣いをかえましょう」といわれるとそういうルールがあるのはわかっても出来ないとなります。知識として知ってはいても実行できないのです。

コミュニケーションをこのように情報の獲得・共有、そしてその運用という視点で整理してみました。

なんとか整理がつきはじめたと思った矢先に冒頭の「(今まで使っていなかった)方言を話すようになる自閉症の子どももいますよね」という情報でした。しかも、前書で方言を話さない事例として紹介したかず君も、学校卒業後に方言を話すようになったというのです。私のこれまでの解釈に反するものでした。いったい何が起きているのか。新たな謎が浮上しました。

小学生
写真=iStock.com/Milatas
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日本語話者家庭なのに英語を話す子が現れた

そこで、それまで共通語だったが方言を話すようになった自閉スペクトラム症の事例について調査するため、保護者および担任の先生へ質問紙での調査や聞き取りを行いました。方言を話すようになった時期は児童期から青年期までとさまざまでしたが、その頃から以下の点が共通して見られました。

1)対人的スキル/対人的認知スキルの顕著な獲得
2)同級生や同年代の友人との関係性の変化
3)人への興味・関心の増加や人への気遣い

保護者や先生は、方言を話すきっかけとして、周囲の人々との関係性の変化を挙げています。対象人数が少なく、確実なことは言えないのですが、自閉スペクトラム症の人々でも人へ興味・関心をもち、自ら同年代と関わり仲良くなることで社会的スキルを獲得し、みんなが話している方言を使うようになったようです。

その後さらに、おどろくべき情報が自閉スペクトラム症幼児の保護者から寄せられました。そのお子さんは、生まれてからずっと日本在住で両親とも日本語話者でありながら英語しか話さないというのです。