「ワキの汗がにおう=ワキガ」ではない

「この子はワキガだと思うのですが、治るでしょうか?」

お母さんは深刻な表情で尋ねました。ワキガを理由にいじめられないか心配だとおっしゃいます。一方、中学生の娘さんは「なんでこんなところに連れてこられたんだろう?」とでも言いたげな表情で、状況がよく分かっていない様子です。

デオドラントスティックを使用している女性
写真=iStock.com/Aleksandr Rybalko
※写真はイメージです

2021年頃から、私のクリニックには、こんなふうにお父さん、お母さんが中高生の息子さん、娘さんを連れて、ワキガの相談に訪れるケースが増えています。この親子のように深刻なのは親御さんだけというケースも多いです。

中高生に関する相談が増えた理由はいくつかありますが、そもそも「ワキの汗がにおうこと」と「ワキガであること」が異なる症状だと知られていないことが、不安の背景にあるように思います。

太古に利用していたフェロモンの名残

汗が分泌される汗腺には、エクリン腺、アポクリン腺の2種類があります。エクリン腺はほぼ全身にあり、特に手掌、足底、腋窩えきか(ワキの下)に最も多く存在しています。このエクリン腺から分泌される汗の99%は水分で塩分、ミネラルがわずかに含まれているのみです。

一方、アポクリン腺はワキの下、外陰部、乳輪など特定の部位にしかありません。アポクリン腺からの汗には脂質、タンパク質が含まれており、これらが皮膚表面の細菌の作用で分解され、特有のニオイを生じます。このニオイを発するのが「ワキガ」で、医学的には腋臭症えきしゅうしょうが正式名称となります。このニオイは人間が哺乳動物だった頃にフェロモンとして利用していた名残であるといわれています。

エクリン腺からの汗は基本的に無臭ですが、放置していると細菌が繁殖してニオイを生じます。そのため、わきのエクリン腺から分泌された汗がにおう=ワキガだと思っている人が多いのです。