腹式呼吸よりも簡単な「胸腹式呼吸」

背中をゆるめるためにおすすめのアプローチを二つ紹介します。どちらも10秒あればできる簡単なものですので、ぜひ習慣にしてみてください。

その一つは呼吸法です。呼吸というとまず「腹式呼吸」をイメージされる方が多いと思いますが、私は「腹式呼吸」ではなく、より簡単な「胸腹式呼吸」をおすすめします。なぜなら、腹式呼吸の場合は、息を吸い込む際に無理にお腹を膨らませる必要があるため、どうしても不自然な動作になってしまうからです。

窓際で伸びをする女性
写真=iStock.com/indigo making studio
※写真はイメージです

なぜ、背中をゆるめるために呼吸が大切なのでしょうか? 呼吸について少しだけ説明します。呼吸というと、「肺が広がったり縮んだりする」と考えがちですが、肺そのものが勝手に動いてくれるわけではありません。肺の周辺にある筋肉(呼吸筋)の動きによって、呼吸は行われています。

人の肺は、胸椎きょうつい肋骨ろっこつ胸骨きょうこつ、横隔膜などで囲まれた「胸郭きょうかく」と呼ばれる骨組み状の箱の中におさまっています。その内側の空間を「胸腔きょうくう」と呼びます。胸腔が広がったり縮んだりすることで呼吸活動が行われているのですが、胸郭を動かしているのが、呼吸筋なのです。呼吸筋が固くなって動きが悪くなると、胸郭はうまく広がらなくなります。

筋肉がゆるみ、呼吸が深くなる好循環

その呼吸筋として代表的なものの一つに、肋骨の周辺にある「肋間筋ろっかんきん」があります。

犬飼奈穂『背中をゆるめると健康になる』(プレジデント社)
犬飼奈穂『背中をゆるめると健康になる』(プレジデント社)

肋間筋は、肋骨を取り囲むようにぐるりと背中側にもついているので、背中の筋肉が固くなると、肋間筋のスムーズな動きをさまたげてしまい、肋骨がうまく広がらなくなります。そうすると、もう一つの代表的な呼吸筋「横隔膜」の動きも制限されます。こうして胸郭が広がらなくなると、無意識のうちに呼吸は浅く、速くなります。

筋肉はピンポイントで固くなるのではなく、引っ張り合い、連動しています。背中にある、大きな筋肉をたくさん動かしてゆるめることで、胸まわりの筋肉や呼吸筋をゆるめることができるのです。背中をゆるめると、呼吸の質が上がるというわけですが、逆のことも言えます。

つまり、深い呼吸を意識することによって、背中をゆるめることもできるのです。呼吸が深くなると、酸素の供給量が上がります。筋肉にも酸素がしっかりと届くので、筋肉の柔軟性が上がって動きやすくなります。呼吸によって背中の筋肉がゆるみ、筋肉がゆるむことでさらに呼吸が深くなる……。このような良い循環が生まれます。