あまりにピント外れの事故調査委員会レポート

関西電力大飯原発の再稼働問題に端を発して、再稼働に抗議したり、脱原発、反原発を訴えるデモや集会が日本各地で行われている。毎週金曜日の夕方に首相官邸を取り囲むデモ隊の数が膨れ上がっていくのを見るにつけ、私は暗澹たる気持ちになる。

原発事故の責任を曖昧にしたまま、なし崩し的に再稼働を決めた政府。怒りの矛先を原発そのものに向けて反応をエスカレートさせていく国民。こうした構図では建設的な議論ができるはずがない。結局、再び重大な事故が起きるか、政府が倒れるかしなければ何も動かないだろう。

脱原発か、再稼働かを問う前提条件として、まずやらなければいけないのは、福島第一原発の事故原因を徹底的に究明して、被災後の経過を正確に把握することである。それができなければ、安全対策など立てられるはずがない。そして福島第一原発事故の反省に立った安全対策が正しく織り込まれているかどうかということが、ストップした原子炉を再稼働させる判断基準になるはずだ。

ところが肝心の事故原因の究明が進まない。

原発再稼働 最後の条件
[著]大前研一(小学館刊)

細野豪志原発担当大臣(当時、原発事故対応担当の首相補佐官)からの要請を受けて私が事故調査と再発防止に取り組むことになったのは11年6月。

4カ月後の10月に「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」と題した中間報告を細野大臣に提出して、YouTubeにも公開した。さらに福島第一原発事故の教訓が大飯原発3号機、4号機にも生かせるかを調査分析、その結果を追加した最終報告を12月に細野大臣に提出した。

この最終報告書の要点を再構成して一般向けにわかりやすくまとめた『原発再稼働・最後の条件』(小学館)を上梓したのは、12年7月末のことだ。その少し前、7月5日にようやく国会の事故調査委員会(黒川清委員長)が最終報告を出し、続いて7月23日に政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)が最終報告書を提出した。

事故から実に1年以上が経過して、国会と政府と民間の事故調査委員会のレポートが出揃ったことになるわけだが、その緩慢さもさることながら、事故の調査・検証報告としてあまりにピントが外れていることに驚かされた。