政府は国民に具体的にわかりやすく説明すべき

福島第一原発の事故では、「全電源喪失の問題」ともう1つ、「冷却源の問題」が大きかった。メーンの冷却用ポンプと非常用電源の冷却用ポンプが、同じ海に面して枕を並べて設置されていたために、津波で一斉に使いものにならなくなり、海水をくみ上げて冷却する海水冷却系の機能をすべて喪失してしまったのだ。

原子力安全・保安院は、非常用電源にしても冷却源にしても、同系統のシステムを複数持つ「多重性」は確保していたが、「多様性」の視点を欠いていた。

福島第一原発は“想定”を上回る15m超の津波に襲われた。(東京電力/PANA=写真)

同じ海水ポンプでも別系統になるように、たとえば設置場所を工夫したり、河川や湖沼、貯水池から淡水ポンプを引いたり、空冷式の冷却システムや非常用の水源車を配備するなどして、「多様な冷却源」を確保する必要があるのだ。

いかなる事態が起きても、電源と冷却源を確保する。それさえできていれば冷温停止まで持っていけるので、原子炉がメルトダウンするような極めて深刻な事故は起きない。福島の反省に立てば、「あらゆる方法を使って電源と冷却源を確保すること」が原発再稼働の最低限の条件ということになる。

私が「大飯原発3号機、4号機に関しては再稼働しても大丈夫だ」と主張してきたのには理由がある。それは、私が提出した中間報告を参考にして、最悪の事態になっても電源と冷却源を確保できるように、関西電力が大飯原発の大幅な設計変更を施したからだ。

関西電力が用意した「電源と冷却源の多重性と多様性の確保」を私自身が分析・検証し、その結果を12月に提出した事故調査の最終報告に掲載した。

大阪の橋下徹市長に私の最終報告書を送って読んでもらうことで、ようやく彼も納得した(技術的にわからない部分に関しては、専門家を呼んで4時間も解説してもらったそうだ)。

橋下市長だけではない。私は自分のレポートがどれだけ受け入れられるのかを確かめるために、複数の原発設置県の首長に声をかけた。私自身が時間をかけてレポートの内容を説明し、質疑応答を受けたら、皆、理解してくれた。

「政府はなぜこういう説明をしないのか。政府がこう言ってくれれば私は受け入れるのに」とまで言うのである。政府は福島第一のことと関係ない「ストレステスト」なるものを持ちだして「安全」だとか「合格」だとか言っている。人々は福島から話を起こさないと誰も聞く耳を持たない。

福島で何が起こったのか。そこで学びえた教訓、日本だけではなく世界の他の原子炉にも適用されるべき教訓、は何か――。政府が具体的に国民にわかりやすく説明していれば、原発や放射能に対する無用な不安をかき立てられることなく、盲目的な反原発、脱原発の世論を多少なりとも減じることができたかもしれない。