再発防止策を考えるには原子炉の分析が必要

事故というのは、物理的現象である。物理的な現象である以上、物理的な原因が存在する。物理的にどういうことが起きたのかを説明して、それが起こらないようにするためにはどうすればよいかを示さなければ、事故調査の意味がない。私はそのように心がけて最終報告書を作成した。『原発再稼働・最後の条件』を読めばわかってもらえると思うが、何が原因か、どういう対策を講じればよいか、誰の目にもわかるようになっている。

しかし、国会事故調も政府事故調も、「何重もの安全技術で守られていたはずの原発がなぜあのような状態に陥ったのか」という問いには正面から答えていないのだ。

「想定を超える津波に襲われたから」では答えになっていない。「想定を超える津波に襲われて、何がどうなったか」を分析・検証するのが事故調査である。にもかかわらず、国会事故調の最終報告は、原子炉の中で何が起こったのかをまったく分析していない。それどころか「中に入れなかったので、後の分析に委ねるしかない」などと平然と書いてある。

実際、想定を超える津波で同じ状況に陥った福島第一の5、6号機は冷温停止に至っている。何が貢献したのか? これは事故に至った炉と助かった炉の違いを克明に調査するしかない。事故原因を知り、再発防止策を考えるには首の皮一枚で生き残った原子炉の分析をしなくてはならない。

完全防護で、昼夜を問わない厳しい作業が続いた。(東京電力/PANA=写真)

国会事故調は延べ1000人にヒアリングを実施したそうだが、それだけの話を聞けば風聞も入り込んでくる。たとえば「地震の直後に1号炉からシューという音を聞いた」というある作業員の証言を受けて「配管破断があったに違いない」などと推測している。地震による配管破断で1号機はいち早く事故を起こしたというのだ。

しかし、私が調査した限りでは配管破断など生じていない。1号機では地震で外部電源が落ちた後に非常用電源が立ち上がり、津波に襲われるまでの45分間は非常用電源が作動していた。

そのため、各種のメーターが生きていた。もし本当に配管破断が起きていれば、圧力が急激に下がって、それがメーターに記録として残っているはずだが、そういう証拠は何もなかった。実はほかに「シューッ」という音がする可能性があるのは非常用復水器(IC)であるが、それは地震のあと45分間だけ動いていた証拠がある。だから私は配管破断ではなく、多分この音は緊急冷却装置(ISOLATION CHAMBER)だった可能性がある、と見ている。

国会事故調の最終報告書が、「あのとき誰がこう言った」と風聞だけを集めた“三面記事”のような内容になっているのも、関係者たちの聞き取り調査を主体としているからだろう。人と組織の問題ばかりを論点にして、事故の原因を当時の菅直人首相と官邸の過剰介入や、原子力ムラの問題などが引き起こした「人災」と結論づけている。最後は原子力行政を歪ませた原因として、「日本人の国民性」まで引き合いに出してくるのだから、あきれるばかりだ。

政府の事故調査・検証委員会の最終報告書も読んでいると目が眩んでくる。事故の原因が山のように書いてあるからだ。コンサルタントの世界では、ダメコン(ダメなコンサルタント)ほどクライアント企業の問題点を100も200もあげつらう。たとえば「営業マンの元気がない」という問題に対して、「営業マンの元気が出るプログラムをつくる」といった具合に、問題点をただ逆読みしただけの対策を、これまた100も200も提示するのだ。そんなコンサルティングで会社がよくなるはずがない。問題の原因を突き詰めて、一つの根本的な原因に帰着させなければ、対応策は立てられないのだ。