官製値下げによって事業計画は大幅に狂わされた

3つ目の誤算は、携帯料金の官製値下げです。これは最も予期せぬものだったかもしれませんが、最も事業計画にダメージを与えた誤算でもありました。楽天モバイルのスタートから半年後の20年9月、総務大臣経験者の菅義偉首相が誕生。菅氏は持論である「携帯料金は4割程度下げる余地がある」を実践すべく、「携帯料金官製値下げ圧力」を発動しました。まず政府が大株主であるNTTドコモがこれに従ったことで、au、ソフトバンクも追随するという、予想だにしなかった展開になってしまったのです。

令和3年1月4日 菅内閣総理大臣記者会見(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
令和3年1月4日 菅内閣総理大臣記者会見(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

サービススタート当初は圧倒的な業界最安値であった楽天の月額2980円は、瞬く間に大手3キャリアに追いつかれてしまうこととなり、後発でかつ「つながりにくい楽天」としては一層の値下げを強いられることになりました。結果的に楽天のモバイル事業黒字化は先が見えなくなり、官製値下げによって事業計画は大幅に狂わされたのです。

表向きは、楽天も時の首相の人気取り政策の犠牲者であると言えるかもしれません。しかし、そもそも政府による楽天の業界参入認可は、3大キャリアの実質カルテル状態で高止まりが続いていた日本の携帯電話料金を、大幅に引き下げさせるための起爆剤として期待してのものでもあったわけです。残念ながら楽天ではその役割が果たせないと判断したからこその、国による「強制値下げ執行」であったとも言えます。

有利子負債は「これ以上増やせない」のが実情

もちろん、それは先に述べたように、楽天が基地局整備を甘く見たために開業が遅れ受信状況の改善が遅々としてすすまなかったこと、加えてプラチナバンドを軽視したが故に一層「つながりにくい」印象となったことで、3大キャリアにほとんど危機感を与えることができず、政府の期待に沿えなかったことに起因しているわけです。これも結局のところ、甘い見通しによる誤算の連鎖が、自らの首を絞めた自業自得の結果であると言えそうです。

楽天がここにきて自前の基地局設置からau回線の全面借用に180度方針転換した理由は、この先も年間3000億円という基地局設置投資を続けていくことが、財務上難しくなってきたことに他なりません。

22年12月期段階での有利子負債の総額が1兆7600億円にも上り、財務状況の急激な悪化で投資格付は投機的水準にまで格下げになっています。決算会見時に三木谷社長は「有利子負債はこれ以上増やさない」と宣言しましたが、実際には「これ以上増やせない」のが実情なのです。