仮説をもとにパンデミックに備えた

「パンデミック級の感染症が来るかもしれない」

専門家のこのひと言を有力な仮説として、真っ先に動いた国があります。

アメリカ、ドイツ、イギリスです。新型コロナのパンデミックによって世界中にウイルスがまん延してから1年ほどでこの3カ国はワクチンを開発してみせました。

これは世界にとって大快挙だといえます。通常、ワクチン開発の過程で、有効性、安全性を十分に検証するためには、数年から数十年の期間が必要であると考えられています。ところが、今回の新型コロナのパンデミックによって、これらの国ではワクチン開発は急ピッチで進められました。たった1年でワクチンを開発した――。

これは、新型コロナのパンデミックが起こってから「よーい、ドン!」で開発できるものではないというのが私の見解です。おそらく、アメリカ、ドイツ、イギリスといった国々は、常日頃から「感染症は来るものだ」という仮説を立てて準備をしていたのではないでしょうか。

だからこそ、「パンデミック級の感染症が来るかもしれない」という専門家の仮説のもと、すぐにワクチンを開発できたわけです。実際に、そのワクチンを世界中に配布して大勢の命が助かりました。

こうした事例から、私たちが学べることがあります。それは、世の中の潜在的なリスクに対して、常にさまざまな仮説を立てて、いざとなったらすぐに実行できるよう準備しておくべきだ、ということ。

そうした仮説を立てて準備をしているのか、それとも漫然とかまえているのかで後々大きな違いを生みます。ビジネスでいえば、その違いは「成功」や「利益」です。今回の新型コロナワクチンで、アメリカ、ドイツ、イギリスの製薬会社は莫大ばくだいな利益を生み出したことは、いうまでもありません。

仮説が企業の成功を左右する

ワクチン開発では話が大きくてピンと来ないかもしれませんので、これを皆さんのビジネスの話に置き換えてみましょう。

たとえば、ある新商品開発に関する有益な情報を耳にしたとしましょう。「その情報をもとにいくつも仮説を立て、その中から有力な仮説を導き出し、どのライバル企業よりも早く新商品開発の準備を進めた」企業があったとします。

一方で、「そんな仮説は何の根拠もない。うちはやらないでおこう」と、何もしない企業があったとします。もちろん、それが正しい仮説かどうかは、ふたを開けるまでわからないでしょう。

でも、それが有益な情報から生まれた有力な仮説であれば、その新商品がもたらす成功や利益に大きな期待が持てます。そしていざ、市場に出してみたら、大ヒット! 当然大きな成功と利益を独占的に手に入れることになります。

何もしなかった企業も、そのまま指をくわえて見ているだけではないでしょう。きっと、「急いでうちも開発するんだ」と、後追いで新商品を開発するでしょう。

ですが、この企業が手にするのは“二番せんじ”の小さな成功と利益だけです。それはどの企業よりも早く仮説を立て、検証して準備をした企業の成功や利益には足元にも及ばないのです。こうした成功や利益に大きな差を生み出すのも、また仮説の力だといえるでしょう。

仮説が、企業の成功や利益を左右する。このことを肝に銘じて常日頃から仮説を立てる癖をつけてみてください。