病院代、車のローン…「無心」の理由はさまざま

頭では国同士の経済格差、フィリピンの海外出稼ぎの仕組みや、海外送金によりフィリピンという国の経済や家族が支えられているということは理解できる。日本に出稼ぎに来たミカと結婚するということは、自分もこうした仕組みの中に組み込まれるということも理解していたつもりだった。

それでも、実際に毎月の定期的な送金や、臨時送金として大きな金額をフィリピンに送るのを間近で見ると、頭ではなく感情の部分で「大変だな」と思ってしまう。

日本に来るために、マネージャーとの間で結んだ契約は、奴隷契約といえど、切れれば自由の身となれる。だが、フィリピンの家族への送金は終わらない。いつまで毎月大金を送り続けなければならないのかわからない。

ミカがフィリピンパブ勤めを終え、妊娠、出産し、姉の家を出た後も、毎月、少額でも生活の足しになればと送金は続いていた。僕だけの稼ぎの中から、家賃、光熱費、食費などを払い、残った僅かな金の中からフィリピンへ送金する。

正直、日本での生活は楽ではない。それでもフィリピンからは、「お金を送ってくれ」という連絡が頻繁に来る。生活費としての定期送金以外にも、病院代はもちろん、ビジネスで急に資金が必要になった、車のローンを払ってくれなど、そういった金の無心にも対応しなければならない。ミカが働いていない今、その金を出すのは僕だ。

「明日お母さんの誕生日だから、1万円送るからね。お金ちょうだいよ」と、仕事から帰ってきてまず聞くのが、フィリピンへの送金話という時は、さすがにガクッと力が抜ける。

妻の携帯は親戚からの着信履歴の山であふれる

フィリピンの親戚からは、電話やメッセンジャーで「食べるものがないから食費を送ってくれ」「病気だから薬代をくれ」と何度も連絡が来る。家族には送金をしろと言うミカだが、親戚からの要望に関しては、「全部無視して。お金ちょうだいしか言わないから」と言う。

圧倒されるあまりにも多くの電話を呼び出し
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ミカの携帯には、未読メッセージと、出なかった着信履歴の山が残されている。ミカに連絡がつかない親戚たちが、夫の僕に連絡をしてくる。僕もやりとりするうちに、すぐに「お金を送ってほしい」というお願いに変わるのに疲れ果てて、返信をしなくなった。

「日本はお金持ちの国だと思ってるからね」とミカは言う。