社会問題にもなった「ゲーム脳」は科学的ではない

何か社会的な問題が起きたとき、いわゆる有識者や専門家と呼ばれる人たちがマスコミに登場し、その原因や解決方法を解説することがある。たとえば、2000年前後に、小・中学校での校内暴力が大きな問題となったことがある(校内暴力は教師による暴力も含め現在も続いている)。

当時、脳科学者も新聞やテレビなどのマスメディアに登場し、原因や対処法について解説することがあった。それらのうちで最も頻繁に登場し、また全国的に広まったものが、コンピュータゲームに夢中になっている子どもたちの脳に原因があるという解説であった。いわゆる「ゲーム脳」である。

記憶している人も多いかもしれないが、簡単にいえば、コンピュータゲームを毎日何時間もやっていると前頭葉の機能が低下し、それは認知症と同じであり、注意力が散漫になり衝動性も増すため、暴力的にもなるという理論である。

しかし、その根拠となったデータは、脳科学の主要な雑誌には掲載されておらず、ゲームをすることで起こる脳波の変化が認知症と同じであるという事実も確認されていない。そもそも認知症が一般的に、衝動性と暴力を増すかどうかも定かではない。ゲーム脳の理論はすべてが不正確であり、当時から他の研究者や精神科医などから多くの批判の声が上がっていた。

精神的疲労と脳の疲労のイメージ
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学校関係者に歓迎されたが根拠はなかった

とはいえ、どのような問題であれ、一般の人は常にわかりやすい原因を求めている。校内暴力のようなやっかいな問題に対し、ゲームが原因であると独断的にいい切ったことで、この脳科学を装った理論はたちどころに全国に広がり、特に学校関係者や保護者の間では歓迎された。教育委員会主催の講演会まで開催されたほどである。

さらにゲーム脳は、マスメディアが盛んに取り上げたこともあり、校内暴力以外のさまざまな問題にも広がりを見せ、凶悪事件が起こると、犯人はゲーム脳だった可能性があると報じられたこともあった。

死者107名を出した2005年のJR福知山線脱線事故でさえ、運転手はゲーム脳だったという新聞の見出しを見た記憶がある。もちろん、現在、この理論は完全に否定されており、ゲームが前頭葉の機能を低下させるということも、またそれによって暴力的になるということもない。