国債市場の下落は先物市場が主導する。タテホ・ショックの直前に国債(JGB)のトレーディング部門に配属されたK君は、生まれて初めて買い持ちポジションを作った途端に、タテホ・ショックに直面した。

当時は確か3円の値幅制限だった(1日3円以上の価格下落は成立させない)が、連日、値幅制限下限に値が張り付く(=値幅制限の下限でも売り手が買い手よりも圧倒的に多く取引が成立しない)。

翌日もさらに3円下がってオープンするが、その値幅制限下限に値が1日中張り付く。やはり売り手過多で取引が成立しないのだ。パニックがパニックを生んでいった。

日本銀行
日本銀行は、日本の中央銀行である(東京都中央区 日本銀行本店)(写真=Wiiii/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

市場の怖さに立ち向かうことは容易ではない

毎日(取引が成立しないので)板を眺めているだけだったK君は、(ポジションはとても小さかったのにもかかわらず)連日、真っ青な顔をしていた。損の拡大を防ぐ術がなく、損が膨らんでいくのを毎日、見ているだけなのは恐怖なのだ。どこまで損が広がるかわからないからだ。

制限価格の下限で買い向かう人もたまにいたが、買っても市場は制限価格の下限に張り付いたままでその日は終わり。翌朝は朝から前日から3円下がったところで1日張り付いたままで、その日も終わる。

既に保有していた国債の損失が拡大し倒産も意識せざるを得ない状態のときに、誰がポジションを買い増せるのか? 今回のショック時でも日銀にとって代わるだけの需要が出てくる目途がたたない限り、連日、値幅制限の切り下げが続くと私は思う。

今、1%で長期金利の上昇が止まると予想している方々には、「そういう事態になった時、買いで立ち向かえるものなら立ち向かってみろ」と私は言いたい。口で言うのは簡単でも市場の怖さに立ち向かうことは容易ではない。

YCCを解除すれば日銀はThe End、日本円は紙くずになる

以上の理由から、私は植田新総裁がYCCを解除することは到底無理だと思っている。市場の反応の様相を間違えて安直にYCCを解除すれば、その時点で日銀はThe End。円は紙くず化して、日本経済はぐしゃぐしゃだ。

YCCが解除できないということは、日銀は、どんなに激しいインフレが日本で起きようともお金をバラマキ続けなければならないということで、インフレはますます加速していってしまう。そんな惨めな国は世界では日本以外にない。

それでは日銀に残された選択肢はなんだろうか。

私は「長期金利の変動許容幅の拡大」、すなわち「長期金利の上限引き上げ」だけだろうと思っている。

日銀はこれまで段階的に変動許容幅を拡大させてきた。昨年12月の金融政策決定会合では±0.25%から±0.5%に変更。すぐに10年国債金利は上限にまで急上昇した。

仮に、再び変動許容幅を引き上げれば、市中金利はすぐに上限いっぱいに上昇し、張り付いてしまうだろう(国債価格は下落することを意味する)。それもまた大きな問題だ。国債を多く抱える地銀や生保、そして日銀自身の保有国債の評価損が増えてしまうからだ。