経済成長不要論者は雇用を切り捨てている

経済成長不要論は一見もっともらしい主張ですが、先ほどご紹介したオークンの法則によれば、経済成長率が下がるほど失業率の伸びが大きくなるわけですから、実は経済成長不要論者は「失業者が増えてもかまわない」と言っているのと同じことになります。

なぜこうした奇妙な主張が日本で人気なのかといえば、経済学を学んでいるはずの経済学者たちの間ですら経済成長不要論が人気だからです。日本では戦後に高度経済成長が続き、失業率が長らく低いままでしたが、おそらくそのせいで、失業率がこれまで経済指標として注目されなかったのでしょう。そのため、重要な経済理論であるはずのオークンの法則も軽視され続けてきたのではないでしょうか。

「経済成長よりも環境問題などの社会問題に取り組むことを優先すべきだ」という意見も非現実的です。かつて高度経済成長期に、公害や環境破壊などが社会問題化したことを受けて経済成長を批判する声が上がりましたが、その後オイルショックが起きて経済が混乱すると、経済成長批判どころではない状況になってしまいました。

たしかに社会問題への取り組みは重要ですが、経済が停滞してしまっては元も子もありません。むしろ、地に足をつけて社会問題に取り組むためにこそ、継続的な経済成長を重視すべきなのです。

一部の富裕層だけが潤う経済成長はありえない

経済成長不要論の問題は先ほど指摘しましたが、それでもなお「経済成長は一部の富裕層をさらに豊かにするだけ」と主張してくる人がいます。

しかし、オークンの法則によれば、経済成長に伴って仕事に就ける人が増えるわけですから、経済成長の恩恵を受けるのが一部の富裕層だけだというのはあきらかな誤りです。

どれほど優秀な人でも大規模な経済活動を1人ではできず、素晴らしいアイデアが製品やサービスとして現実のものになるまでには多くの労働者が関わるはずです。

消費者がその製品やサービスに支払う対価は、それらを生み出すために働いた人々全体に分配されることになるのですから、けっして、特定の少数の人々が対価を独占するわけではありません。

また、アベノミクスの影響で株価が上がった際には、「投資家が利益を得るだけだ」と批判する人が大勢いました。しかしこれも短絡的です。図表2のように、金融緩和や財政出動などの政策が打ち出されると市場がいち早く反応するため、その政策の具体的な効果が出る前にまず株価が上がります。

そして、政策がうまく機能すれば、労働者が受け取る賃金(名目賃金)は増え、物価は上昇します。その後、一時的に賃金の価値(実質賃金)が目減りするものの、物価上昇の影響で企業の利益が上がることで、最終的に実質賃金も追いつくことになるのです。