2012年7月25日(水)

なぜ渋滞時は追い越し車線のほうが流れが悪いのか

「わが家の暮らし&財布」の小さな大疑問【11】渋滞学

PRESIDENT 2010年5月31日号

著者
西成 活裕 にしなり・かつひろ
東京大学 先端科学技術研究センター教授

西成 活裕東京大学工学部卒業後、同大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。専門は数理物理学、渋滞学。主な著書に『渋滞学』『誤解学』『無駄学』などがある。

東京大学教授 西成活裕 構成=久保田正志 撮影=市来朋久、宇佐見利明、坂本道浩 図版作成=ライヴ・アート
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利己的行動の結果人はアリにも劣る

高速道路には走行車線と追い越し車線がある。統計によれば、空いている時間帯にはそれぞれ平均時速80キロ、100キロほどで流れている。ところが速度が30キロ以下の「渋滞」になると逆転し、時速数キロほどだが、走行車線のほうが速くなることがわかっている。なぜこのような逆転現象が起こるのだろうか。

車の数が増えて車間距離が短くなると、速度を維持しようと車線を変更して、追い越し車線に移る車が増える。渋滞になるとその割合は5割を超し、追い越し車線を走る車のほうが多くなってしまう。このため追い越し車線のほうが走行車線より混雑し、速度が低下してしまう。

私の専門はこのような「渋滞学」だ。研究によれば、混雑時には、急いで走るよりもゆっくり走ったほうが、目的地により早く着くこともわかっている。

交通がスムーズに流れている状態から渋滞へ移行する臨界密度は、2車線の場合、統計的には1キロメートルあたり50台。平均時速72キロ、車間距離にして40メートル、約2秒ごとに車が行き交うような状態だ。外からはスムーズに流れているように見えるはずだが、このとき多くのドライバーは「そろそろ危ない」「今のうちに急ごう」と考え、速度を上げて、車間距離を詰めてしまう。

車間距離に余裕がなくなると、前後の車はアクセルやブレーキを頻繁に踏み換えることになる。その結果、本格的な渋滞が発生し、自分たちの車も渋滞に巻き込まれてしまうのだ。こうした臨界状態では車間距離を守ってゆっくり走ったほうが、結果として早く到着できる。

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