2016年にブレグジットを問う国民投票が行われたとき、離脱派は、EUから「主導権を取り戻す」と主張したものだ。

だが、IMFが1月末に発表した世界経済見通しによると、イギリスは今年、主要国で唯一マイナス成長に陥るとみられている。戦争にかかりきりで欧米諸国の経済制裁を受けているロシアよりも、成長の見通しは悪い。

ブレグジットにより、国内外の企業では事務作業やコストが大幅に増えた。貿易障壁の復活で輸出入は急激に落ち込み、投資も減った。労働力が不足し、物価が上昇した。

英政府の財政運営を監視する予算責任局(OBR)によると、長期的にはイギリスのGDPはブレグジットによって4%落ち込む見通しだ。総生産額は毎年1000億ポンド、公的収入は400億ポンドずつ減っていく計算だ。

ロンドンは世界有数の金融センターだったが、ブレグジットにより、金融業界の専門職はごっそりパリ(とヨーロッパの他の都市)へと移住していった。このためヨーロッパの金融の中心というシティーの座は危うくなっている。海外直接投資も、10年から21年にかけて4%減った。

だが、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の報告書によると、長期的に見てブレグジットの最大の打撃を受けるのは家計だ。イギリスでは19年からの2年間で、食品価格が平均210ポンド(約3万3000円)上昇した。その痛みは低所得者ほど大きくなる。

一方、1707年からイギリスの一員であるスコットランドは、イギリスからの独立を問う2度目の住民投票の準備をしている。2016年のブレグジットを問う国民投票で、スコットランドでは有権者の62%がEU残留を希望したのだから無理もない。

16年当時、イギリス全体では52%が離脱を支持したが、今は違う。調査会社ユーガブの最近の調査によると、EU離脱は正しかったかとの問いに対して、イエスと答えた人はわずか34%で、54%がノーと答えたのだ。

それなのに、EU離脱を推進した保守党は政権を握り続けており、相変わらずブレグジットこそが成長への道だと主張している。野党の労働党も、ブレグジットが英経済にマイナスの影響を与えることを、公には認めていない。