過剰治療は経済的コストの増加を招く

また、スクリーニング(あぶり出し)検査には、必ず偽陽性が存在します。偽陽性の人は本当はがんでないのに、誤ってがんと診断されてしまいます。ですので、本当はがんでないのに、いつも「私は本当はがんだったのでは?」という不安に悩まされることが多いという精神的な負荷が指摘されています。

カメを見つけて治療するという過剰治療と、偽陽性に関しては心理的な苦痛だけでなく経済コストの増加を招くことも指摘されています。アメリカでの試算によると、毎年40億ドル(約5000億円)にもなると言われています。

がん検診を受けないという選択もあってよいと思います。

寿命にもQOLにも関係ないことに税金が使われている

Q. 健診と検診は違うものですか?
A. オーバーラップする部分はありますが、基本的には別物です。

厚労省の資料では、健診は、「必ずしも疾患自体を確認するものではないが、健康づくりの観点から経時的に値を把握することが望ましい検査群」で「陰性であっても行動変容につなげるねらいがある」、他方検診は、「主に疾患自体を確認するための検査群」で「陰性であれば次の検診まで経過観察を行う」とされています(厚生労働省ホームページ「健診・検診の考え方」(*3)

「健診」の代表例は、メタボ健診です。脳卒中や心血管障害(狭心症や心筋梗塞)のリスクを下げる目的で行われます。これに対して「検診」は、がん検診(がんの早期発見)とイコールと考えてよいでしょう。健診は、法的な位置づけは医療ではありません。健康診査と医療が担うべき役割は区別されるべきとされています(*4)

腹囲を測られるおなかの出た男性
写真=iStock.com/TAGSTOCK1
※写真はイメージです

健診、がん検診とも法律(労働安全衛生法:安衛法)に基づき行われていますが、企業の場合は、「使用者責任」の名のもと、職員はこれらの検査を受けることが決められています。果たして、この2つの対策に効果があるのでしょうか。答えは、「不明」です。

現在、全国健康保険協会(協会けんぽ)などでも解析がされているところですが、メタボ健診や特定保健指導が、脳卒中や心血管障害のリスクを下げるかどうかは、極めて疑わしいです。また、がんを早期にあぶり出して治療する目的のがん検診に関しても、人口全体の死亡率を下げる効果があるか、という問いに関しては、ネガティブに限りなく近い、ということが、世界的なデータで明らかになっています。

やってもやっても寿命も延びず、QOL(生活の質)の向上に結び付かないことに税金を使うのは意味不明です。

(*3)厚生労働省ホームページ「健診・検診の考え方
(*4)第4回特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会の概要