「イラク戦争」実はリベラリズムに基づいていた

これに対して、「リアリズム」は、国際秩序を成り立たせているのは、民主主義や貿易の自由といったリベラルな制度や価値観ではなく、軍事力や経済力といったパワーのバランスであるとする理論です。

リアリズムの論者たちは、リベラリズムを批判していました。

しかし、ビル・クリントン政権、ジョージ・W・ブッシュ政権、そしてバラク・オバマ政権は、いずれもリアリズムからの批判に耳を貸さず、リベラリズムに従った戦略を推進してきました。

その結果は、どうなったのでしょうか。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は、2003年、イラクのサダム・フセイン政権を打倒すべく、イラク戦争を引き起こしました。

その目的として掲げられたのが、イラクおよび中東の民主化です。

イラクを民主化すれば、ドミノ倒しのように、他の中東諸国でも民主化の動きが起きる。中東は平和になり、かつ親米になる。

ブッシュ政権は、このようなリベラリズムの戦略に基づいて、イラク戦争を引き起こしました。

しかし、このイラク戦争は、中東の一層の混乱とアメリカの疲弊という失敗に終わりました。

「湾岸戦争とイラク戦争」アメリカのスタンスはまったく異なっていた
写真=iStock.com/karenfoleyphotography
「湾岸戦争とイラク戦争」アメリカのスタンスはまったく異なっていた

リアリズムに基づいていた「湾岸戦争」

このイラク戦争と対照的なのが、1990~91年の湾岸戦争です。

湾岸戦争は、フセイン政権下のイラクがクウェートに侵攻したことで引き起こされました。

当時のアメリカの大統領は、ジョージ・W・ブッシュの父のジョージ・H・W・ブッシュでした。

父ブッシュ大統領は、多国籍軍を構成して、イラク軍と戦い、圧倒的な勝利を収めてクウェートを解放しました。

しかし、父ブッシュ大統領は、フセイン政権の打倒を目指すことはありませんでした。なぜなら、イラクに対する攻撃やフセイン政権の打倒は、中東におけるパワー・バランスを崩壊させる恐れがあったからです。

つまり、湾岸戦争に対するアメリカの戦略は、リベラリズムよりもリアリズムに基づいていたのです。