スネ夫とバイキンマンの声が高い理由

こうした情報処理を巧みに利用しているのが幼児向け番組です。ずるい奴や悪い奴が必ず登場しますが、そうしたキャラクターの声には共通項があります。

若い白人の女の子は、テレビでアニメーション映画の漫画を見て時間を無駄に床に一人で横たわっている
写真=iStock.com/Pawel Kajak
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『ドラえもん』のスネ夫も『アンパンマン』のバイキンマンも声が高いですよね。視聴者にキャラクターのネガティブな印象を直感的に与えられるように声をつくっています。

反対に低い声は「いい奴」と思われる可能性が高くなります。

低く深みのある声は、なんと話し手の性格に好意まで与えるのです。その上、聴き手とは本来関連性の低い情報も受け入れる傾向が高まることもわかっています。

つまり、発信する人そのものが深みのある声で信頼に値すれば、自分は興味がなかったり、自分に直接関係なかったりする情報でも「なるほど」と受け入れやすくなる傾向があります。ある意味、内容の意味が少しわからなくても、低い声だったら信じやすくなる面があるのです。

「それならば、企業は低く深みのある声の人をCMに使えば、その製品は売れるのでは」と思われるでしょう。まさにその通りです。

伝説的ボイスアクターの声色

ドン・ラフォンティーヌという伝説的ボイスアクターがいます。

彼は映画の予告編のナレーションを5000本以上、テレビ、ラジオのCMはそれ以上を数えきれないほど担当していたといいます。昔の映画の予告編などがYouTubeにあるので、聴いてみて欲しいのですが、声は超低音で深みはありますが、冷静に聴くと、決して聴き取りやすい声ではありません。ただ、超低い声のために、商品に好印象や信頼性を抱かせて、オファーが絶えなかったわけです。

低い声が信頼性を増すように感じるのは、私たちの情報処理の問題とお話ししました。しかし、脳のメカニズムの問題かというと必ずしもそうではありません。

これはあくまでも推論ですが、文化的な要因が大きいのでしょう。例えば法律的な助言だと、高い声よりも低い声のほうが信頼性が高いと感じる傾向にあるといわれています。これは法曹界がこれまで男性中心だったからにすぎないと思われます。

こうしたジェンダーギャップは、近年意識されてきています。

例えば、薬のCMのナレーションは以前は男性の声が大半でしたが、最近は女性の声が目立ち始めています。ですから、こうした積み重ねで、長期的には私たちの認知が変わる可能性もありますが、現時点では低い声が高い声よりも好意を形成しやすいのが現実です。