「政府は原子力なしにこの夏を乗り切られるのが怖いのです。もし原発なしに乗り切れたら“やっぱり原発はいらないじゃないか”という脱原発の世論が高まる。そうならないように、政府は何が何でも夏前に原発を稼働させたい。政府と産業界が夏の電力不足を盛んに煽るのはそのためですよ」(民主党中堅代議士)
5月6日、日本国内の原発54基が全停止した。野田政権は福井県の関西電力、大飯原発3、4号機の再稼働を試みたが、滋賀県、大阪府など周辺自治体の反発を受け難航。政府与党の民主党内からも異論が噴出し、原発はすべて停止した。
それでも政府、電力会社、一部新聞は「原発が停止して夏を迎えると大規模な停電になる恐れがある」「電力不足を嫌って企業が国外へ脱出、産業が空洞化する」などと危機を訴えている。
この夏、電力は本当に不足するのだろうか。エネルギー問題に詳しい民主党原発事故収束対策プロジェクトチーム(PT)の荒井聰座長はこう話す。
「我々は昨年から党内でこの問題を何度も議論してきたが、結論としては“乗り切れる”と見ています。電力不足が予想されるのは高校野球中継のある8月半ばの3、4日程度と見られ、時間も1日中ではなく午前10時から午後2時までの4時間程度。夏の間、ずっと電力が不足するのではない。この程度なら計画停電をせず、エアコンを扇風機に変えるなど、国民に節電を呼びかければ何とか対応できると思っています」
内閣府・国家戦略室のエネルギー・環境会議が昨年7月29日にまとめた電力需給見込みによると、今年8月の電力会社9社の電力供給力は最大で1億6297万キロワット。これに対し、猛暑だった一昨年の電力需要は1億7954万キロワット。そこで、もし今夏が一昨年並みの猛暑なら、8月は1656万キロワット(9.2%)の電力不足になる、と同会議は試算した。
「一昨年の夏といえば、まだ東日本大震災が起こる前です。つまり政府は大震災前と同様、国民が電力を無駄遣いすると想定して9.2%も不足するぞと脅しているのです。大震災を経て電力に関する国民の意識は大きく変わり、首都圏では計画停電も経験済み。国民は政府が考えるほど愚かではない。ピークから逆算して電力不足を強調するのは原発を再稼働したいからだ」(前出・民主党中堅代議士)
エネルギー・環境会議では、一昨年夏に基づく試算とは別に、昨夏のピーク時を基にした試算も出している。これは今夏が昨夏並みの暑さで、昨夏同様の電力の使用制限を行ったと仮定して試算したもの。こちらの試算だと9社で逆に636万キロワット(3.9%)の電力が余る計算だ。つまり節電もせず、電気を使いまくった場合は不足するが、昨年並みの使用制限を行えば電力は余るのだ。