<隠し持っていたのは、核やスパイの情報源に関わる重要機密文書だったが、問題なのは前大統領の順法精神だ:ウィリアム・アーキン>
ワシントンD.C.にあるFBI本部ビル
写真=iStock.com/Joel Carillet
ワシントンD.C.にあるFBI本部ビル

真の目的は、ドナルド・トランプ前米大統領が個人的に「隠匿」する文書の回収だった――FBIが8月8日、フロリダ州にあるトランプの邸宅マールアラーゴを家宅捜索した件について、米情報当局高官2人が本誌にそう明かした。

捜査に関与する当局者によれば、前大統領の私邸の捜索という前代未聞の行為を正当化し、トランプが私的に保管する文書の存在を暴露した情報源を保護するため、あらゆる政府文書を探しているとの名目で捜査員はマールアラーゴに踏み込んだ。

だが真の目的は、問題の保管文書だったという。トランプがこれらの文書を利用するのではないかと、米司法省当局者らは懸念していた。「米政府の正当な所有物は全て収集したが、本当の目的はトランプが政権発足当初から集めてきた文書だった」と、この匿名の情報提供者は証言する。

当局者らが示唆するところでは、文書の内容は前大統領の興味の対象だったさまざまな機密情報だ。そこには、2016年米大統領選へのロシアの介入疑惑をはじめ、自らに対する選挙関連の犯罪容疑を晴らす材料になると、トランプが判断したとみられる資料も含まれる。

トランプが昨年1月にホワイトハウスを去った際、通常の引き継ぎ手順の多くが無視された。本人が20年大統領選での敗北を認めず、退任を拒否したことが大きな理由だ。

その結果、42箱分もの記録が誤ってマールアラーゴへ送られた。いずれも、米国立公文書館が保管・分類すべきだと法律が定める公文書だ。

FBIと司法省が知った「コレクション」の存在

トランプ側と国立公文書館は1年半以上前から協議を繰り返し、これまでに15箱(と複数の追加資料)が返却されていた。今年6月3日、特定文書の提出を命じる大陪審の召喚状を発するため、FBIと司法省の職員がマールアラーゴを訪れるまで、一連の交渉はおおむね友好的だった。

しかし捜査の過程で、FBIと司法省は前大統領の「コレクション」の存在を知った。いくつかの文書については、トランプは自分が保管していると告白するつもりも返却する意図もなかったと、ある匿名の情報源は語っている。

大統領時代、トランプは日頃から機密報告書のページを破り取ったり、興味のある資料をホワイトハウスの居住スペースに持ち帰っていたと、トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンらは述べている。その大半は、米情報機関の情報源や情報収集手法を明らかにしかねない内容だった。