料理も雑談もうまい天才シェフの店

「この人は話がうまい」と聞けば、私は東西南北、どこへでも飛んで行きます。高僧の話を聞きに、青森の恐山まで足を延ばしたり、ちょっと怪しい投資セミナーの講師の説得力が半端ないと聞いて、その会合に潜入したり……。

「天才カリスマシェフの話術がすごい!」と聞き、向かったのが山形の鶴岡市でした。全国から、食通が集まるという「アル・ケッチァーノ」のシェフ、奥田政行さん客席を飛び回り、お客さんとの会話を弾ませます。

その人懐っこさが、またミシュラン級。あっという間に相手の胸襟を開き、距離を縮めていきます。彼いわく、その秘訣のひとつが「相手に同化する」ことだそうです。相手の話し方をマネして、その温度や周波数に話し方を合わせていくのだとか。会った瞬間から「見ず知らずの他人」のような気がしないのには、そんな理由があったのです。

仕上げのソースをかけるシェフの手元
写真=iStock.com/Denisfilm
※写真はイメージです

中田敦彦さんの比類なきたとえ力

たとえの妙味はやはり、膝をポンと打つような面白さでしょう。それが上手なのはお笑い芸人の方々ですよね。

中田敦彦さんが大人気の「中田敦彦のYouTube大学」で、前作『世界最高の話し方』を取り上げてくださいました。その中で、彼はまさに人を惹きつけるテクニックを縦横無尽に駆使していたわけですが、とくに印象深かったのが、卓越したたとえ力でした。

・「鉄のように固い意志」でなく、「田舎のばあちゃんがくれたせんべいぐらい固い意志」。
・視線は投網じゃないんですよ。(ぶっきらぼうに広げて投げりゃいいってもんじゃない)
・会話は餅つき。(相手のリアクションを確認せずに話すのは)餅つきで、相方が餅を返しているのを確認しないまま、ノールックでひたすら杵をついているようなもん。
・会話って、相手の杵と息を合わせることです。リアクションを待つんです。
・情報の銃弾をマシンガンのようにぶっぱなしてはいけない。

本当にうまいですよね。もう、ほんと脱帽です。