前例や先行事例は思考範囲を狭める

現在の正解のない時代には、ゼロからイチを生み出す「構想力」が求められる。今回は、私自身の「構想力の原点」の話をしたい。

マサチューセッツ工科大学(グレートドーム)。
マサチューセッツ工科大学(グレートドーム)。(dpa/時事通信フォト=写真)

MITの大学院にいた頃のエピソードだ。今となっては50年以上も前のことだが、今でも胸に刻まれている。私が“一生の師”と仰ぐロバート・オグルビー教授と話していたときだ。

私は原子力工学科の博士課程にいながら、材料工学科のオグルビー先生の研究室に机を置いて、電子顕微鏡を使って研究をしていた。あるとき先生から「ケン、電子顕微鏡で原子を見たい。どうすればいいか考えろ」と言われた。

私が「わかりました。図書館で調べてきます」と立ち上がると、チョークが飛んできた。「バカ、図書館に答えがあるか。おれとおまえで考えるんだ」と先生に叱られた。

日本の学生は、まず図書館で答えを探そうとする。留学したばかりの私も同じだった。オグルビー先生は「ゼロから自分で考えろ」と叱ったのだ。

先生と私は、黒板にいろいろな仮説や数式などを書きながら議論し、仲間を増やしながら2年ほどかけてオージェ・エレクトロンという電子を使った顕微鏡を開発した。