正しいリスクがわからなければ正しい選択は難しい

つまり、大腸がんになるリスクは約15人に1人から、約12人に1人に高まります。何もないわけではありませんが、“リスクが20%増”よりはずっと怖くなくなるでしょう。じつは、怖さはもっと減らせます。

イギリス人男性100人中約7人は、一生のうちいずれかの時点でがんになり、もし全員がベーコンを1日当たり1枚多く食べるとすれば、7人ではなく8.4人が大腸がんになります。

つまり、1日につき1枚の余分なベーコンは、食べなければならなかったはずの大腸がんになる可能性を、およそ70人に1人分[100÷(8.4-7)≒71.4]増やすということです。もしあなたが女性なら、その可能性はさらに低くなります。

70人に1人ががんになる可能性を、無視してよいと言いたいのではありません。自分の食事を変更すべきかどうかを判断する助けになる重要な情報です。そして、この情報は、あなたのリスクについて何も言っていないに等しい“20%増”とはまったく違います。

これは、ベーコンを余計に食べることにより得られる利益――ベーコンを食べるとおいしい! ベーコンは人生をより楽しくする! ――とリスクとのトレードオフなのです。このトレードオフに価値があるかどうかを検討するには、きちんとした情報が必要です。

相対リスクは薬の効果を高く見せたいときにも使われる

相対リスクは、薬が実際より効果があるように見せたいときにも使われます――たとえば、アメリカのあるがんの薬は「化学療法に比べて死亡のリスクを41%減らす」と広告していました。良いことのように聞こえます。

しかし実態は、生存期間を平均3.2カ月延ばしたということでした(※6)。アメリカFDAの調査では、医師が薬の効果を絶対値ではなく“相対的な値”で知らされることは、「薬の有効性についての認識の高まりや、処方したいという意欲と関連する」ことが分かっています(※7)。――つまり医師ですら相対リスクにだまされているのです。数字を絶対値で示すことは、患者や医師も含めて私たち皆が、こうした危険についてよりよく理解することにつながります。

さらに言えば、何か――政党や、もしかしたら宗教も――が「急成長している」と書かれているときは注意してください。もしある政党が週ごとに倍増しているなら、相対的に見れば確かに急成長しているのかもしれません。でも、党員が先週は1人で、今週はその1人が自分の夫を誘って入党させたのだと知ったら、確かに2人に倍増はしたものの、大したこととは思わないでしょう。