2007年に滋賀県大津市で開かれた第27回全国豊かな海づくり大会の式典で、平成の天皇は驚きの発言をした。静岡福祉大学名誉教授の小田部雄次さんは「異常繁殖したブルーギルが琵琶湖の在来魚を減らしていたことに対し、『ブルーギルは50年近く前、私が米国より持ち帰りました』と語り、『心を痛めています』と悔悟の念を明かされた」という――。

※本稿は、小田部雄次『皇室と学問』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

稚魚を放流される両陛下
写真=時事通信フォト
2007年11月11日、第27回全国豊かな海づくり大会で、稚魚を放流される天皇、皇后両陛下(当時。滋賀・大津市のなぎさ公園打出の森)

四大行幸啓のひとつ、全国豊かな海づくり大会の始まり

現在、天皇皇后の重要な皇室行事である四大行幸啓のひとつに、全国豊かな海づくり大会がある。この大会は1981年(昭和56)の大分県南海部郡鶴見町の第1回大会より始まった。

これにより、天皇皇后の二大行幸啓であった全国植樹祭と国民体育大会に加え、全国豊かな海づくり大会が皇太子夫妻の行啓として加わった。その後、皇太子明仁夫妻が平成の天皇皇后となることで三大行幸啓となり、さらに1986年に第1回大会が開かれ、浩宮徳仁親王(後の皇太子、現天皇)が行啓した国民文化祭(2017年から全国障害者芸術・文化祭と合同開催)が令和になって加えられ、四大行幸啓となっている。

日本の漁場の将来に強い関心を持っていた上皇陛下

皇太子明仁夫妻の代にはじまった全国豊かな海づくり大会は、1957年6月20日に房総半島南端近くの千葉県館山市の北条海岸で行われた第2回「放魚祭」がきっかけといわれる。

当時、乱獲や工場汚水の流出、海浜の埋め立てなどで漁場は荒廃しつつあり、皇太子であった平成の天皇は海や漁場の将来への関心を高めていた。このころ水産資源保護の重要性を伝えるため「放魚祭」が開催されており、その第2回目にまだ独身であった皇太子が臨席した。

古来、日本では、捕獲した魚や鳥獣を野に放ち殺生を戒める放生会の伝統があり、「放魚祭」はそうした儀式の再現でもあった。

その後、1980年に当時の全漁連会長が東宮御所を訪れ、皇太子夫妻に「かつての放魚祭を充実させ、皇室のご理解のもと国民的行事として毎年開催し、豊かな海づくりを世論に訴えて参りたい」と語り、理解を得た。

その後、宮内庁や水産庁などが協議し、全国規模で毎年開催される「全国豊かな海づくり大会」に皇太子夫妻が臨席する方向が示された(「『豊穣なる海への挑戦』40年秘話」『女性セブン』)。

全国豊かな海づくり大会は、1981年に大分県で第1回が開かれ、毎年全国各地で持ち回りで開かれることとなり、85年の北海道サロマ湖での第5回大会では、大会翌日の早朝に皇太子自ら「胴長姿」になってサロマ湖に生息するハゼを捕獲するために湖に入るサプライズがあった。

また美智子妃は翌86年の歌会始で、「砂州越えてオホーツクの海望みたり佐呂間の水に稚魚を放ちて」と詠んだ。