「救急受け入れが日本最多」の病院の苦悩

「3名全員、入院させないといけないの?」

電話をとった會田あいだ悦久よしひさ医師の顔が一瞬くもった。後ろで「まじっすか」と、つぶやく医師もいる。

湘南鎌倉総合病院のコロナ臨時病棟入り口
撮影=笹井恵里子
コロナ臨時病棟の管理棟

今年2月、湘南鎌倉総合病院が運営する「コロナ臨時病棟」で、私が取材をしている時のことだった。もともとここにはすでに55人の中等症のコロナ患者が入院している。加えてこの日は、新たに入院を予定しているコロナ患者もいた。そこへさらに同院の救命救急センター(ER)から、「中等症と診断されるコロナ患者が3名搬送されてきたので、受け入れてもらえないか」という要請があったのだ。

「仕方ない。“救急患者を断らない”というのが、この病院のポリシーですから」と、會田医師が振り返って言う。同院ERは近年日本で最も救急搬送を受け入れている。

「どこも医療体制が厳しい今、救急患者の搬送が増えています。そしてERに中等症のコロナ患者が搬送されれば、このコロナ臨時病棟が受け皿になるしかありません」

「5類引き下げ」が無意味に思えるほど現場は危機にある

コロナの第3波、第5波、今回の第6波と、私は同院の救急医療体制やコロナ臨時病棟を取材し、さまざまな媒体で記事を発表してきた。“医療逼迫ひっぱく”を訴えるためではない。同院をモデルとして各地域で「コロナと通常の救急」を両立する医療体制を構築し、一日でも早く国民が日常を取り戻せるようにと願って、原稿を書いてきたのだ。

だが今、現場を目にして、これまでとは違う厳しい状況を感じた。感染法上の分類について、メディアでは「感染拡大につながるから2類相当のままにするべき」「いやいや開業医でも診られるように5類に引き下げよう」などの意見の対立を目にするが、今はそのような議論が無意味に思えるほど現場は危機に陥っている。

ちなみに、私自身は以前から感染症法上の分類を「5類」に引き下げることに賛成の立場だ。昨夏のプレジデントオンラインへの寄稿<「在宅放置でコロナ死する人をもう増やしたくない」長尾医師が5類引き下げを訴える本当の理由>でもそう書いている。だが患者の搬送先が見つからず、断らない病院ばかりに負荷がかかりすぎている今は、新しい体制にすることでかえって混乱を招くかもしれない、とこの時思った。今回の記事で、現場の状況が少しでも伝わればと思う。

最初に、湘南鎌倉総合病院がこれまでどれほどコロナ患者を受け入れてきたかにふれておきたい。