年齢を言い訳に、新しいスキルや知識を習得するのを避けてはいけません。おそらく周囲を見渡しても、新時代や若い世代に拒絶感を抱く人が、年齢を口実に現状維持を良しとしている気がします。ITスキルやプログラミングなど新しいことに常にチャレンジをしている人は、年齢のことなど口にしていないはずです。あくまで想像ですが、81歳にして初めてiPhoneアプリを開発した若宮正子さんは、おそらく自分の年齢にとらわれていないのではないでしょうか。

記憶は時々取り出し、虫干しする

改めて記憶のメカニズムを説明しましょう。「覚えていたはずなのに、思い出せない」というど忘れは、なぜ起こるのか。

記憶の「覚えて、思い出す」メカニズム

私たちがPC作業をする際は、作成した文書や表計算をファイル内に保存します。1年後に確認したければ、そのファイルを開けばいいだけの話です。

しかし、脳の記憶はそうはいきません。保存したはずの記憶が、時間の経過とともに保存先を移動していたり、内容を改ざんしたり、最悪の場合(しかもよくあることですが)いつの間にか消去していることもあるのです。

人間の記憶には「短期記憶」と「長期記憶」の2種類があります。ものを覚えるとき、いったん収納されるのは、前頭葉が司る「短期記憶」です。口頭で伝えられた電話番号を覚え、後でメモする場合などの一時保存機能です。

しかし記憶をずっと固定するためには、改めて大脳皮質全体(特に側頭連合野)が司る「長期記憶」に保存しなくてはなりません。みなさんも英単語を覚える際、1度見ただけでは覚えられず、何度も繰り返し復習したはずです。「短期記憶」に保存された情報は、「長期記憶」への保存を根気よく行わなくてはなりません。

ただし、1度「長期記憶」に保存された記憶も、取り出さなければ忘れ去られてしまいます。そのため、時折前頭葉に引き出して、スクリーンのようなところに映し出す必要があるのです。

10代で覚えたはずの英単語を、50代になるとほとんど覚えていないことがあります。それは「長期記憶」という名の書庫に保存したまま、40年間放置し続けた結果です。記憶は書庫から時々取り出し、虫干しする必要があります。それを行う司書の役割が脳の海馬です。海馬は「長期記憶」を整理し、必要に応じて記憶を取り出し、再度しまう働きをします。

つまり、学習にとってもっとも大切なのは「覚えること」よりも、「取り出すこと」。「インプット」より「アウトプット」であることを覚えておきましょう。