「先生、私は年明けまで生きていますか?」

「実はその日の朝、トイレであれっ、色がおかしい、下血しているかもしれないという気がしたんです。今思えば、その前夜に忘年会でアルコールを飲んだので、刺激になったのかもしれません。とはいえ年の瀬で忙しくしていた時だったので、その日は普通に仕事に出かけたんです。そしたら倒れてしまって、道ゆく人が救急車を呼んでくれました」

だが救急隊員が近隣の病院に連絡しても、年末のためどこの病院も通常診療を受け付けてくれない。行き先の病院が見つからず、救急車の中で時間だけが過ぎていく。しばらくして血圧などの状態が落ち着き、吉野さんは「自分で病院を探します」と救急隊員に告げ、救急車を降りた。

そして医師会が運営する休日診療所を受診し、「大きな病院に紹介状を書いてほしい」と頼んだ。

医師からはこう言われた。

「見た目、元気そうじゃない。大丈夫でしょう。年明けの受診にしたら?」

吉野さんはしばらく考えて、医師の目を真剣に見つめた。

「先生、私は年明けまで生きていますか?」

「自宅には帰せない、すぐ入院して絶対安静」と言われた

すると医師がしぶしぶ紹介状を書いてくれたという。

「その時は脈も速いし、(体の中で)出血しているんだろうなと思っていました。その後、大きな病院で採血をしたらひどい値で、その日のうちに内視鏡検査をすることになりました。案の定、胃から出血していて……。消化器内科に勤めていましたから、画像を見て、胃がんで、それもすごく悪い状態だとすぐにわかったんです。先生もストレートに告知してくださいました。外科の先生からは『もううちには帰せないし、すぐ入院して絶対安静だ』と言われたのですが、私はケアマネージャーの仕事があり、たくさんの利用者さんを抱えていたので、『家に帰って仕事を片付けたいです』と言いました。すると内科の先生が『帰っていいよ』と許可してくださったんです」

その年末年始、吉野さんは猛烈な勢いで抱えている仕事を片付けた。自分が担当している利用者(患者)をすべて別のケアマネージャーに申し送りをしたという。

年明け、胃の全摘手術を受けた。そして1カ月の入院を経て帰宅した。