ロボットやドローン分野でも結合を増やそうとしている

このように考えると、ソニーが世界最大のファウンドリである台湾積体電路製造(TSMC)と合弁で熊本工場を建設する根源的な狙いは、画像処理と車載半導体の製造技術に磨きをかけて、自動車など異業種の企業が生み出してきた製品との新結合をより効率的に実現するためだろう。中長期的な目線で考えると世界経済のデジタル化は進み、より高精度の画像処理を行うニーズは増える。

その展開を念頭にソニーはより高精度な画像処理を可能にするSPAD(Single Photon Avalanche Diode、単一光子アバランシェダイオード)センサーと呼ばれる画像処理半導体の開発を進め、先進運転支援システムや自動運転技術に用いる。そうした取り組みがVISION-Sの創出を支えた。ソニーモビリティはEVに加えてロボットやドローンの開発にも取り組む。自動車以外の分野でもソニーは新しい結合を増やそうとしている。

人間のシルエットはドローンを取る
写真=iStock.com/RyanKing999
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「こうでなければならない」という固定観念は対応力を削ぐ

ソニーはVISION-Sの実用化に向けて、自動車など異業種から専門人材を獲得してモビリティ分野での事業運営体制を強化している。それは、わが国経済の実力である潜在成長率の引き上げに無視できない影響を与えるだろう。おそらくソニーはVISION-Sの生産を国内の自動車メーカーに打診しただろう。

しかし、VISION-Sの試作車の生産は国内企業ではなく、マグナ・シュタイアーが担当している。ソニーの申し出は自動車メーカーに難色を示された可能性がある。結果的にソニーが海外企業に生産を委託したことは、自動車は自社で設計から生産までを一貫して行う製品だという国内自動車産業の固定観念の強さを示唆する。

よく似た発想が、かつての本邦電機産業にもあった。1990年代以降のアジア新興国経済の成長と米国でのIT革命を背景に、デジタル家電の国際分業が加速した。その一方で、わが国の電機メーカーは雇用を守るという社会的な要請もあり、国内での設計・開発・生産体制の維持に固執し、結果として競争力を失った。自社の事業運営はこうでなければならないという固定観念は環境変化への対応力を削ぐ恐れがある。