社内の多くが非航空業界の出身

数々のアイデアの中で最初に形になったのは、2021年6月の「0泊弾丸旅」だ。宿泊しなければ人との接触が減り、感染リスクも抑えられる。そうしたニーズに応えて日帰り往復運賃に特別料金を適用した。もともと2012年から期間限定で販売していた人気企画だったが、コロナ禍で約8年ぶりに復活させた。6月の販売開始以降0泊弾丸運賃は約5000席が売れた。非常に好評で、現在、2022年1月の平日を対象にした第2弾が追加販売中だ。

その他、21年10月には、ワーケーションや地方との二拠点生活に便利な国内線定額乗り放題「ホーダイパス」を販売。150枚の限定だったが、即日完売した。それを受けて12月には新たに「九州ホーダイパス」も販売している。

安全な運航が至上命題である航空業界は、保守的な考え方が支配的になりがちだ。にもかかわらず、なぜピーチは社内から斬新な企画が次々と出てくるのか。

「運航に関わるオペレーション側は、我々も航空業界出身の人でほぼ占められています。しかし、マーケティングや営業など事業側は、むしろ他業界出身者が多数です。社内に多様な視点があることが、業界らしからぬ企画につながっているのかもしれません」(福島氏)

最初は「1日1個売れたらいいと思っていた」

「旅くじ」の発案者である小笹氏も、前職は沖縄県石垣市役所勤務の公務員で、他業界の出身だ。実は「旅くじ」はそれ単独ではなく、大阪心斎橋のコワーキングスペース利用の副産物として生まれたアイデアだった。

「コロナ禍で、みなさんの気持ちの中から旅行が消えてしまいました。旅することをもう一度思い出してもらうために、21年8月に心斎橋PARCOのコワーキングスペースの一角を借りて、他業界やお客様と触れ合うスペースをつくりました。そこでは私たちがオフィスとして使う他、デジタルライブをやったりギャラリーを併設して、おでかけする気持ちをくすぐる活動をしています。開設に当たって、お客様と話すときにネタになるようなものが何かほしかった。それで考えたのが『旅くじ』でした」(小笹氏)

思いついたのはコワーキングスペース入居の1カ月前。社内からおもしろいミッションを募って、カプセルも既製品を組み合わせて突貫でつくった。カプセル詰め作業は全て社員の手作業だ。もともと小笹氏は大きな期待はかけておらず、「1日1個、年間300個売れれば十分」と考えていた。しかし、ふたを開けてみると、会話のネタになる以上のインパクトがあった。

「女満別と出たら、『女満別ってどこ?』『何をすればいいの?』と、カプセルを買った時点からわくわく感が増幅されていく。実際に旅に出なくても、もう旅が始まっているようなものです。それがウケて、こちらが思っている以上に売れました」