紅茶とタバコは頭脳の活性化のため

それにしてもカントは規則がお好き。食事を見てみると、朝はまず紅茶を二杯飲み、タバコを一服したそうです。朝食はとりませんでした。

健康に留意している自由意志の人なのに喫煙とは首を傾げますが、当時は喫煙による健康被害は知られておらず、紅茶もタバコも目覚めを促し頭脳を活性化すると信じられていました。

トルコ紅茶と紙巻きたばこ
写真=iStock.com/bilgehan yilmaz
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若い頃はコーヒーを好みましたが、コーヒーに含まれる油分が有害と考え、中年以降は遠ざけています。

そして寝巻のまま講義の準備。それが最もリラックスする服装であり、服を着替えたり整えたりする回数を減らすのも効率主義故でしょう。

7時になると着替えて、自宅内の講義室(少人数でのゼミを行う)で授業を行い、9時にそれが終わると再び寝間着になって午後1時15分まで勉強と執筆に充てました。

つまり午前中の早い時間に講義準備をし、講義2時間、自己学習並びに執筆に約4時間の仕事をし、それ以外の予定を午後に入れるようにしていました。執筆の日課は、はじめは一時までだったのが、足りなくて15分伸びたともいわれています。

会食では黒パンにチーズ、肉料理とメドック

この後が昼食で、多くの場合、客を迎えて長く続き、通常4時までが充てられています。大食いだったわけではなく、会食を楽しむためでした。カントは食事をしながらの会話を通して、自身の専門外の新知識や、世界情勢など幅広い話題にふれるのを楽しみにしていました。

カント自身も話題が豊富で、その語り口はウィットに富み、客たちはその博識に感嘆しました。その一方で話題が哲学に及ぶのは好まなかったといいます。思想家のなかには語ることで考えをまとめていくタイプもいますが、カントはそうではなかったようです。

会食といっても贅沢なものではなく、カントが健康的だと考えている黒パン(ライ麦パン)にチーズを基調としたもので、基本的に肉料理が添えられていました。酒も飲みましたが過ごすことはなく、食事の際には赤葡萄酒のメドックを少量飲むと決めており、ビールは飲みませんでした。

勧められると「ビールは滋養分が多く、腹が張るから食べ物ですよ」と断っていました。チーズの栄養は頭によく、ビールは眠気を誘って人を怠惰にすると考えていたようです。

ちなみにカントは一日に一度、昼食しか食べませんでした。夕飯は取らず、招かれた際にも控えていたようです。夜の時間は読書に充てるため、食後に眠くなるのを恐れたからといわれています。体の弱かったカントは、講義中や食後に眠くなることがあったようですが、昼寝はしませんでした。