「そこそこやっているのに低評価」が一番危険

大久保幸夫●リクルート ワークス研究所所長。1961年生まれ。一橋大学卒業後、リクルート入社。人材総合サービス事業部門などを経て、99年、人と組織の研究機関・リクルート ワークス研究所を立ち上げる。著書に『キャリアデザイン入門』I、IIなど。

筏下りから山登りへの転換の重要性はすでに述べたが、現実には登るべき山はなかなか決めがたいものだ。その結果、苦悩あるいはぬるま湯の日々へと流されていく人は少なくない。

そのため、若い頃は会社に委ねてきたキャリアプランも、45歳を過ぎれば他人任せにせず、自己責任でしっかり判断し、組み立てていく必要がある。

自分の経験、経歴を踏まえてプランを組み立てるのはもちろん、そのプランの到達点が会社から見て必要なものであるかどうかもよく考え、できれば会社とすり合わせを行うことを勧める。自分はこんなキャリアプランを持っているが、この形なら今後会社に貢献できる。ついては応援をお願いしたい、と、話し合いの場を設けることだ。多くの人はこのすり合わせを行わずに自分の思い込みで進んでしまう。それがあるとき気がつけば会社の考えるベクトルとのズレが拡大してしまった、というよくない結果を招くことにつながる。

「自分はこんなに頑張っているのに会社はちっとも認めてくれない」と感じているなら、それは組織よりコミュニケーション不足を疑ったほうがいい。会社の求める成果と、あなたの考える成果の中身がずれている可能性が高いからだ。

すり合わせの場を設けるのが簡単な職場ばかりではないだろうが、45歳からのビジネスパーソンにはぜひやってほしい。長期のキャリアプランが前提になるので、直属の上司と話し合うだけでは足りないかもしれない。上司の上司、あるいは人事部門、中小企業であれば直接社長と話すのもいい。冒頭で、社会人の必須能力としてコミュニケーション意欲が大事だと述べたが、それがこうした場面で発揮される。

リストラなどの危機にさらされている人も多い世代だと思うが、会社にとって不要な人材というのは、そもそも1日にしてできあがるわけではない。一度や二度の失敗でたまたま低い評価がついたくらいで切られることはあまりないものだ。それよりも、「そこそこきちんと仕事をしているつもりなのに、長い間低い評価が続いている」というときが、一番危ないと思ったほうがいいだろう。

きちんと結果を出しているにもかかわらず、上司にまったく伝わっていないケースも多いので、十分注意してほしい。

家族との関わりも同じである。たとえば年収を200万下げるだけで仕事の選択肢は大きく広がる。本当に必要な生活費はどのくらいか、家族が今、何を望んでいるか、よく話し合っておくべきだ。