田中和彦●プラネットファイブ代表取締役。1958年生まれ。一橋大学卒業後、リクルート入社。ギャガ・コミュニケーションズ、キネマ旬報社などを経て、2007年独立。人材コンサルタント兼プロデューサーとして活躍。著書に『42歳からのルール』。

就職情報誌の編集長を務めた後、統括編集長になり、キャリアの「上がり」を意識したのが30代後半のとき。しかし、実際には40歳で念願の映画業界に転職できた。その後、42歳で一時失職したりもしたが、今は、20代のときに経験した人事関連の仕事を再び手がけている。

そんな私から見た、今の40代は一昔前の40代とはまったく違う。落ち着いたナイスミドルのイメージとはほど遠く、貯金すらない人もいる。その半面、楽天的でまだ変われる可能性も持っていると思う。バブルとその崩壊を両方経験した世代だが、目指すべきロールモデルもなく、手探りで今後のキャリアをつくっていかなくてはならない。

そこでまず、勧めたいのが、「仕事の棚卸し」と「人脈の棚卸し」である。一昔前まで、キャリア形成といえば、昇進や専門性の追求を目指す「縦積み型」を指していたように思う。しかし、実際には職務経験や適性を組み合わせて新たな職域を開拓する「横スライド型」のキャリア展開も十分考えられる。私自身、一から始めたつもりの映画プロデュースの仕事が、予算管理やスタッフ管理、流通の確保などを行う点で、前職の雑誌編集長の仕事と非常に似ていることに驚かされた。

このように、自分の経験を異業種や異職種に「横」に応用することで、新しい一歩を踏み出すことができる。すぐ転職するつもりがなくても、年に一度は職務経歴書を書いたり、人材紹介会社を訪ねて相談してみると、自分でも気づかない経験や適性の掘り起こしができるかもしれない。

人脈に関しては、過去の仕事を通じて苦楽を共にした仲間こそが最も有力なコネクションとなる。しばらく連絡が途絶えていた人にコンタクトを取り、積極的に会いにいくなどしてみれば思わぬチャンスがめぐってくることもあるだろう。実際、転職の約半分は、公募ではなく個人的な人脈から発生するケースである。

思い起こせば私自身コピーライターを志望して入った会社で、人事や広報の仕事に忙殺される20代を送った。ふてくされた時期もあったが、会社説明用のビデオ制作を「やります!」と手を挙げたのが変化のきっかけだったように思う。少しでも制作職に近い仕事をと思ってのことだったが、そこから能動的に動けるようになり道が開けた。50歳を過ぎた今も、チャンスがあればどんどん手を挙げたいと思っている。

(構成=石田純子 撮影=永井 浩)