小さな仕事をたくさん、確実にやり遂げる

大久保幸夫●リクルート ワークス研究所所長。1961年生まれ。一橋大学卒業後、リクルート入社。人材総合サービス事業部門などを経て、99年、人と組織の研究機関・リクルート ワークス研究所を立ち上げる。著書に『キャリアデザイン入門』I、IIなど。

20代から30代前半は、スキルと知識を吸収し、しっかりと基礎固めをする初級キャリアの段階である。流れにある程度身を任せながら、目の前の危険や課題に力を振り絞って対処していく「筏下り」のようなものだ。

現実の「筏下り」というスポーツの目的がゴールではなくプロセスにあるのと同様、この段階では明確なキャリアゴールはなくても構わない。とりあえず「仮決め」した職場で、仕事は取捨選択を意識せずに何でも引き受けて、短期的な成果を挙げることに全力を尽くし、見習をしながら基礎力を鍛えていく。状況がいかに変わってもポジティブに向き合っていく心構えと自信を固めることも大事だ。これから数十年働き続けるための、いわば強い「地肩」づくりを行うのがこの世代なのである。

この段階で習得すべきは「型」である。自分独自の仕事のスタイルをつくる前にまず、歴史の中で培われた先人たちのやり方を覚えることを優先する。尊敬、あるいは共感できる上司、先輩、プロをロールモデルにできれば理想的だろう。初めから何もかも自己流で行うのは、一時的にはうまくいったとしても、早い段階で行き詰まりを迎える可能性が高い。

ただしこの「筏下り」だけを10年、15年と続けてしまうと、自分に体力がつく半面、川の流れは緩慢になり、全力を注がなくても日々をやり過ごせるようになる。そのまま手を打たずに流されたままでいると、そのうち大洋に流れ出て漂流しないとも限らない。

逆に筏下りを省略してあまりに早い段階で登るべき山を決めてしまうと、経験や知識の不足から誤った選択をしてしまう恐れも大いにある。こういった失敗を避けるためには、基礎力がついてから目標を定め、それに向かって前進する「山登り」に切り替えることだ。