コグトレは「九九や漢字を覚える学習」に近い

私は、コグトレには“効果”という考え方はそもそもそぐわないものと考えている。また、コグトレはIQを上げるトレーニングだと誤解されている方もいるが、むしろ九九や漢字を覚えるといった学習に近い。

子供の頃、九九や漢字を一生懸命覚えた記憶がみなさんあるだろう。それに対して、「どんな効果があるのか?」とはあまり考えない。九九や漢字を覚えておかないと、それ以降の勉強にまったくついていけなくなるから、そもそも覚えなければいけない。「九九を覚えるエビデンスは?」と問いかけるのが筋違いなのと同様に、コグトレについても、「写す」力が弱いから写す練習をする、「数える」力が弱いから集中して数える練習をする。その結果、黒板を写せるようになる、数え間違いをしなくなる。それがコグトレの目的であり、それ以上でも以下でもない。

コグトレは、ただ学習そのものではなく、学習の土台となる見る力や聞く力、想像する力、集中力といった認知機能を鍛えることを目的としている。目の前に、簡単な図形を写せない子や計算ミスが多い子がいるのを見て、“他にいいところを見つけて褒めてあげる”のではなく、しっかり模写や計算ができるようにその子を支援してあげたい。“できないことをできるように”それがコグトレのモットーである。

10週間のコグトレで平均点が上がった小学生

ただ、効果についてまったく調べられていないわけではない。例えばある小学校では、コグトレの施行前後で比較して、コグトレシートの点数の低かった児童集団が、数カ月のトレーニングで学年全体の平均点に追いついたという結果が得られている。これこそまさにコグトレの効果といえるかもしれない。

コグトレを使った児童の認知機能評価の図表
引用=井阪幸恵、2021:コグトレを使った児童の認知機能評価「コグトレ研究」第1号p12〜15

当初は、小学生から10代の子供が取り組めるように開発してきたが、現在では小学校就学前の子供向けのトレーニングも充実している。2022年春には絵本の刊行も控えている。また、高齢者向けの認知機能トレーニングも好評で、少年院で開発されたコグトレは思わぬ広がりを見せている。