「答えがない」から始まる数学的思考法

アローの不可能性定理もまた、答えがないことがわかって終わりではなく、それ以降も研究者たちの指標となってきました。

キム・ミニョン『教養としての数学――数学がわからない僕と数学者の対話』(プレジデント社)
キム・ミニョン『教養としての数学 数学がわからない僕と数学者の対話』(プレジデント社)

一般的に、社会的選択理論に対して多くの批判があるにもかかわらず、この理論は社会福祉の領域など多様な分野に適用されてきました。

重要なことは、この理論が倫理的なシステムにまったく依存しない点です。

つまり、民主的な観点からも、理性的な観点からも、すべての人が受け入れ可能な原則から始まっているのです。

数学的な思考が社会にどう役立つのかという問いに答えるとき、数という概念に引きずられると、非常に限定的な見方にとらわれてしまいます。

私の考える健全な科学的視点とは「近似(approximation)」していく過程である、これを前提とすることです。

完璧にできないからと諦めるのではなく、限定された条件の下でも理解できる現象があることを受け入れ、後からひっくり返されても、現在の条件の中で可能なかぎり考えることが大切です。

近似していく道のり、つねに変わりうる可能性、そして繊細に論理を組み上げる過程。それこそが学問だと言ってもいいでしょう。

【関連記事】
「ほぼ100%の人が目を覚ます」タクシー運転手が酔った客を起こすときに使う"奥の手"
テスラ車で10人が死亡しても一切謝罪せず…イーロン・マスクが超強気を貫く本当の理由
「なぜワクチンのデマが拡がるのか」接種のメリットを人間が合理的に判断できない理由
「これは詐欺医療である」東大の専門医が潜入調査で確かめた"悪徳クリニック"の許せない手口
「高齢者は年金をもらいすぎだ」世代間不平等を訴える人の根本的勘違い