ミリオンヒットを連発するAKB48。前回『AKB人気の秘密は「法律スレスレ」にあった』では、投票券つきCDが抱き合わせ販売にあたるかどうかについて取り上げたが、今回は、同じくCD特典としてついてくる握手券の法的問題について取り上げる。

握手券をめぐっては、2010年8月、メンバー2人の名前が入ったゴム印を作って握手券15枚を偽造し、他のファンに売ろうとしたという事件が発生。この男性、懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。

まさにAKB48の人気に便乗した犯罪だが、注目したいのは、その罪状だ。男性が問われたのは、私文書偽造罪ではなく、「有価証券偽造罪と同交付罪」というより重い罪。刑法は「行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以上10年以下の懲役に処する」(162条1項)と定めている。裁判所は握手という単なる「挨拶」を「権利」として認め、握手券は有価証券だと判断したことになる。

たしかに握手券はネットオークションで取引される場合がある。しかし、アイドルに興味のない人にとっては単なる紙きれにすぎず、有価証券といわれてもピンとこない。はたして有価証券とそうでないものの境界線はどこにあるのか。荘司雅彦弁護士は次のように教えてくれた。

「ひとくちに有価証券といっても、商法と刑法で定義が異なります。まずその違いを理解することが大切です」

商法では、財産的価値のある私権を表章し、権利の発生、移転、行使について証券が必要なものを有価証券とする説が一般的だ。一方、刑法上は、「財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につきその証券の占有を必要とするもの」(最判昭32.7.25)という判例がある。さっと読んだだけではよくわからないが、違いは「紙きれに権利がくっついて不可分かどうか」(荘司弁護士)という。「株券や小切手といった典型的な有価証券は、それを紛失すると財産権も同時に失います。このように財産的な債権が紙と一緒にくっついて移転するものは、商法・刑法とも有価証券です。ただ、なかには紛失しても再発行できるものもある。この場合は権利と紙が必ずしも不可分ではなく、権利を行使するときにその紙があればいい。この種の証券は、商法上、有価証券とみなされませんが、刑法では有価証券の扱いになります」(同)