製造技術そのものへの不安が高まっている

複数回にわたるリコールの影響を評価するために8月下旬までの過去1年間、両社の株価の推移を確認すると、GMの株価は1年前よりも高い水準を維持している。LG化学は横ばい圏だ。

GMの株価上昇の背景には、投資家の楽観がある。特に、今回のリコールはGMがEV戦略の切り札として重視する“アルティウム”プラットフォームとは別の問題であり、GMのEV戦略に大きな影響はないと考える投資家は多いようだ。米国の金融市場で低金利環境と過剰流動性が続くとの見方も株価を支えている。

他方で、主要投資家はLG化学の事業運営への懸念を強めている。現代自動車のEVリコールの際にLG化学は費用の7割を負担した。EVシフトに伴い車載バッテリーメーカーの社会的責任は高まる。ことに、LG化学の車載バッテリーが相次いで発火問題を起こしているため、根本的な原因究明がどう進むか不安視する主要投資家は多い。車載に限らず、LG化学のバッテリー製造技術そのものへの不安が強まっている。

パリの充電ステーションで充電するEV車
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“対中国”でLG化学と連携する意義は大きい

ただし、リコール問題がGMに与える影響は慎重に考えるべきだ。GMにとってシボレー・ボルトEVのすべてがリコール対象となったことは、ブランドイメージの毀損きそんと、EV戦略のつまづきを意味する。GMはLG化学のバッテリー生産技術をどう評価していたか、発火問題が発生していた後の対応が適切であったかを確認し、必要な対策をとらなければならない。それが消費者からの信頼回復に不可欠だ。

それに加えて見逃せないのが、経済安全保障の観点から考えた場合、GMにとってLG化学は電動化を進める重要なパートナーであることだ。

足許、世界の自動車産業では、電動化と脱炭素というゲームチェンジが進行している。それに加えて、米国はIT先端分野や人権問題で中国と対立し、高容量バッテリーやレアアースなどに関して中国に依存しないサプライチェーンの整備に取り組んでいる。韓国は米国にとっての同盟国であり、戦略上重要性が高まるバッテリーの調達でGMがLG化学との提携を進める意義は大きい。