損害賠償を恐れて親族に資産を譲渡したオリンパス前会長

このクーデター劇が、以前取材したオリンパス事件に重なりました。

2011年、長年行ってきた粉飾決算を告発しようとしたオリンパスのイギリス人社長、マイケル・ウッドフォード氏が、取締役会で突然、解任されました。

藤岡雅『保身 積水ハウス、クーデターの深層』(KADOKAWA)
藤岡雅『保身 積水ハウス、クーデターの深層』(KADOKAWA)

解任を決めた当時の菊川剛会長は、粉飾決算が明らかになると、すぐに所有するマンションを親族に譲渡した。株主代表訴訟で善管注意義務違反に問われて、損害賠償請求による資産の差し押さえられることを恐れたのでしょう。保身のために、社員や株主の前から臆面もなく逃げ出してしまった。

その4年後に明らかになったのが、東芝の不正会計問題です。当時の田中久雄社長は、会社ぐるみの1500億円を越える利益の水増しを「不正会計」と言い張り、善管注意義務違反を問われる前に、所有マンションを奥さんに生前贈与した。

さらに2019年には、関西電力の会長だった八木誠氏ら幹部が、原子力発電所がある福井県大飯郡高浜町の元助役から3億6000万円もの金品を受け取ったとスクープされました。八木氏ら幹部たちは「返すつもりだった」「返すと怒られるので怖かった」と子どものような言い訳を繰り返していました。

ウソと隠ぺいでのし上げり、部下に責任を押し付ける

——東芝の不正会計問題では、経営トップが具体的な数値ではなく「チャレンジ」という言葉を使って、現場に目標達成を強いた結果、粉飾決済につながりました。

「チャレンジ」の一言で、経営者の意を汲んで動けば、組織内では評価されるかもしれません。ただ、それぞれが忖度して勝手に動いていたら、組織の規範そのものが崩壊してしまう。トップが命令すれば、エビデンスがなくても、思い込みだけで進んでいく。

トップに忖度した者が出世し、トップは社員たちを監視下に置いている。組織としては、極めて不健全な体質になってしまった。

——暗澹たる気持ちになりますね。なぜ、そんな小物たちがトップに立てるのでしょう。

積水ハウスの阿部氏の場合は、社内政治に長けていた上に、ライバルと目されていた社長候補が相次いで急逝してしまったからです。あとは、ウソと隠蔽。

株主代表訴訟の代理人を務めた松岡直樹氏と、コーポレート・ガバナンスに造詣の深い日系アメリカ人米国弁護士のウィリアム・ウチモト氏は、積水ハウスの隠蔽体質についてこう指摘しています。

「積水ハウスの取締役等は、必死になって不祥事を隠ぺいしようとしており、その手段として、まず彼らに責任があるとした調査報告書が公開されないようにし、更にその責任により自身が解任されることを回避すべく大胆な取締役会でのクーデターを通じて当時の会長を解任しました」(『保身』p.277)

いま、阿部氏も、地面師事件の善管注意義務違反に問われ、株主代表訴訟を争っていますが「経営者が部下を信頼する権利」を盾に、クビにした東京マンション本部長や法務部長、不動産部長に責任を押しつけている。

地面師事件を通じて、日本の経営者がいかに小物になってしまったか、つくづく思い知りました。それは積水ハウスだけの問題ではありません。積水ハウスのクーデターは、劣化したリーダーたちが起こす不祥事を集約したような事件だったのです。

(構成=山川徹)
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