安易に抗うつ剤を処方する医師、納得する患者

冒頭に記したような、他院で治療を続けながら状況が改善されず、当クリニックに転院してきた事例は、これまでに全受診者の3分の2ほどあります。全受診者でも「うつ病」という診断のつく方はたったの2人でした。転院して来られた患者さんでうつ病の診断がつく方はゼロでした。

ほとんどの患者さんが、効かない薬を飲み続けていたことになります。そして、薬には副作用があることを忘れてはいけません。副作用が原因で会社に行けなくなることもあり、こうなると抑うつ状態になったきっかけすらわからなくなってしまいます。

紫色の野花
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うつ気分を訴え心療内科を訪れる人はたくさんいます。そして心療内科の中には、1日に30~40人という多くの患者さんを、1人当たり15分程度の短時間で「うつです」と診断し、すぐに抗うつ薬や睡眠薬を処方するクリニックもあります。患者さんの方も、うつ病の診断書をもらい薬を処方されるとある意味で安心し、納得します。

うつ病ではないのに抗うつ薬を飲み続ける。しかし当然ながら効果はなく、副作用に苦しむことになる。こうして、治療が長期化するケースが多発するのです。

いつのまにか薬漬けに

非常に深刻な状態になることもあります。複数の医療機関で「うつ病」と診断されていた会社員のBさんのケースです。

最初にBさんが当クリニックを訪れたとき、私は衝撃を受けました。処方されている薬の量が尋常ではなかったのです。多くは向精神薬で、まず抗うつ薬。それに「てんかん」の薬が3種類と、「非定型抗精神病薬」という統合失調症治療にも使われる薬が2種類。さらに、今ではすでに販売中止になっている強力な催眠、鎮静作用のある「ベゲタミン」という製剤が2錠。

加えて睡眠薬や抗不安薬、薬の副作用による便秘を解消するための便秘薬まで含めると、合計10種類以上の薬を飲みながら仕事を続けていたのです。

これは通常あり得ないことで、薬のせいで病気になっているような状態です。生きているのが不思議、といってもいいくらいです。当然まともに仕事ができるわけもなく、物忘れをする、駅の階段でつまずいて転倒するといったことが続いていました。そして何年も、休職と復職を繰り返していました。