あずきばっとうを食べてボツリヌス菌食中毒に

2012年、食品関係者にとって今も忘れられない事件が起きました。「あずきばっとう」によるボツリヌス菌食中毒です。この事例を知れば、「賞味期限切れでも食べられる」と安易に考えることの恐ろしさを感じることでしょう。

あずきばっとうというのは、岩手県と青森県の郷土料理で、甘く煮たあずきにうどんが入ったもの。岩手県で2012年2〜3月に製造された約400個のうちの1つを鳥取県の夫婦が3月下旬に食べ、ボツリヌス菌食中毒となりました。発症すると死に至ることも多い、非常に怖い菌。夫婦は同年6月の段階で人工呼吸管理中と報告されています。

このあずきばっとうは、真空包装し1時間煮沸して製造されていました。ボツリヌス菌は高温に強く、「芽胞」という構造を作って生き延び、温度が下がって適温になると増殖します。この条件では、ボツリヌス菌を死滅させることはできません。

しかし、ボツリヌス菌がいたとしても、冷蔵して増殖を抑え早めに食べていれば、リスクは大きく下がります。県が患者の自宅を調べた時には、製品の賞味期限は剝がれて不明。要冷蔵(5℃以下)の表示がありましたが、守られていたかわかりません。

ボツリヌス菌は120℃、4分以上の加熱では死滅する、とされています。レトルト食品(レトルトパウチ食品)は法律上の名称が「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」で、加圧することにより温度を上げこの条件をクリアできます。

レトルトカレーの表示。レトルトパウチ食品であることが記載され、殺菌方法という項目で、気密性容器に密封し加圧加熱殺菌と記載されていれば、芽胞等も死滅している
レトルトカレーの表示。レトルトパウチ食品であることが記載され、殺菌方法という項目で、気密性容器に密封し加圧加熱殺菌と記載されていれば、芽胞等も死滅している

レトルト食品と真空パック詰食品の違いに注意

結局のところ、被害者から事情を聞けず詳細はわかりませんでした。しかし、レトルト食品と真空包装パック詰の食品は、いずれもプラスチックの袋に食品が包まれ、なんとなく似ています。この二つが混同され、あずきばっとうが冷蔵されていなかったのではないか? ボツリヌス菌は嫌気的な条件を好むため、真空包装パックの中で大量増殖していたのではないか、と推測されたのです。

このあずきばっとう製品を食べたほかの人は食中毒になっておらず、この夫婦だけが発症しました。つまり、製造ではなく、その後の取り扱いが運命を変えたようです。この事例を覚えている食品関係者は、賞味期限切れを食べられるかどうか、簡単には答えられません。「食品の種類は?」「容器包装は?」「保存はどのように行っていたか?」と尋ねます。

この事件の後、厚労省は食品業界に、レトルト食品と真空パック詰食品を区別しボツリヌス菌に対処することなどを求める通知を出しました。併せて、真空パック詰食品には「要冷蔵」をはっきりと表示し、消費者も確認して冷蔵保存するように、と注意喚起しました。

参考情報
国立感染症研究所・鳥取県で発生した国内5年ぶりとなる食餌性ボツリヌス症
厚労省・真空パック詰食品(容器包装詰低酸性食品)のボツリヌス食中毒対策