LGBTなど性的少数者をめぐる「理解増進」法案について、自民党が今国会への提出を見送った。文筆家の古谷経衡さんは「暗澹たる思いだ。法案に反対した保守系議員の主張には、大きく分けて3つの偏見が含まれている」という――。
自民党総務会に臨む(右から)下村博文政調会長、二階俊博幹事長、佐藤勉総務会長ら
写真=時事通信フォト
自民党総務会に臨む(右から)下村博文政調会長、二階俊博幹事長、佐藤勉総務会長ら=2021年5月28日、東京・永田町の同党本部

中近世の日本社会では衆道が市民権を得ていた

LGBTなど性的少数者をめぐる「理解増進」法案について、自民党は今国会への提出を見送った。その背景には、自民党の保守系議員の抵抗があったとみられている。世界中がLGBT権利擁護の潮流の中で着々と法整備を整える中、日本だけがまだその第一歩すら踏み込めていない目下の情勢は極めて暗澹たる思いだ。

今次法案に反対した保守系議員の主張は微に入り細に入り屁理屈や偏見が含まれているが、大きく分ければ次の3点に集約できる。

1)LGBT権利擁護は日本の伝統と相いれない。
2)今次LGBT理解増進法案が成立すると活動家に利用される。
3)同法案の成立が同性婚容認への引き金になりかねない。

以上である。これらを少し詳しく掘り下げていく。

中近世の日本社会では、衆道(男色)が市民権を得ていたのは周知のとおりである。徳川三代将軍家光が男色家であったことは有名な史実だ。保守派の言う「LGBT権利擁護は日本の伝統と相いれない」というのは、約1500年続いてきた日本史の時間軸を無視する暴論で、衆道を認めない方が伝統と相いれない。

では、保守派の想定する「日本の伝統」とは何を指すのかと言えば、端的に言えば戦時統制期の日本の姿である。1930年代中盤から、日本は本格的な戦時統制に入った。増大する軍需に応えるため、電力、鉄鋼、造船、鉄道、新聞・通信社などのメディア、タクシーやバス業界などが次々と編成・統合され、これが戦後に接続する日本特有の縦割り的職能社会、すなわち企業社会を形成した。経済学者の野口悠紀雄はこれを「1940年体制」と名付ける。