キリンビールが好調だ。2020年のビール類の販売数量でアサヒビールを追い抜き、11年ぶりにビール大手4社のトップへと返り咲いた。なぜ、首位の座を奪還できたのか。キリンビールでブランドマネージャーを務める間木研吾さんに聞いた――。
間木研吾さんの写真
筆者撮影
キリンビールマーケティング本部の間木研吾さん

「会社全体でブランドを育てた」本麒麟

2015年からキリンビールを牽引する布施孝之社長は、既存ブランドの価値を長期的な視点で育てていくとともに、新たなビール事業の柱となるヒット商品を生み出すために経営資源の選択と集中を行う「布施改革」を掲げ、同社の躍進を支えた。

売り上げ好調な「本麒麟」
売り上げ好調な「本麒麟」(画像提供=キリンビール)

成果として表れたのは、2018年に発売した「本麒麟」だ。毎年右肩上がりの成長を見せ、昨年の販売数量は酒税法改正による増税の影響をものともせず、前年比約3割増を達成した。

これまでに「キリン 氷結」や「キリン 一番搾り」など、キリンビールの主幹ブランドを担当してきた間木研吾さんはその理由をこう解説する。

「『本麒麟』が大きく伸長したのは、競合他社との競争を優先するのではなく、お客様を理解し、お客様との共有財産であるブランドを育成する、という意識が全社で高まった結果だと思っています。お客様が新ジャンルに期待する『ビールらしい』味覚を徹底的に研究し、キリンビールの持つクラフトマンシップを結集させました。ものづくりに込めたキリンの思いが体現された商品、といえると思います」

競合との差別化よりも、顧客の声に耳を澄ませる

組織改革を行い、消費者の声や求められているニーズに対して実直に向き合ってきた結果、長年ビール業界1位に君臨していたアサヒビールを抜き、首位に躍り出ることができたわけだ。

間木さんは「お客様の支持が過去と比較して着実に上がってきている」と話す。

「うまさやおいしさ、コク、キレなど商品を研ぎ澄ませることはもちろん大事なことです。でも、それがお客様起点でなければ、一方通行なコミュニケーションになってしまう。布施改革では『競合との差別化ではなく、お客様が何を求めているか』という議論にシフトし、『お客様に支持されるブランド価値の創造を追求する』ことを徹底してきました」

「商品を手に取るお客様がどういう気持ちなのか、あるいはどんなシーンで飲用してもらえるのかというのを常に念頭に置き、直感的においしさが伝わるようなコミュニケーションを繰り返した結果、お客様のご支持を得ることができたと考えています。もちろん、キリンビール強みの家飲み需要が増えたことも要因として挙げられますが、やはり一番はお客様の声を理解し、商品を進化させてきたことに尽きると考えています」