コロナ禍で観光業に壊滅的な被害を受けている沖縄県だが、宮古島、石垣島では、一部の畜産品や農作物が活況を呈している。黒毛和牛の子牛価格は、外食需要の落ち込みで急落した1年前から早くもV字回復した。県内でコンサルタント業を営む座安あきの氏がリポートする――。
焼く様子
筆者撮影
ゆいまーる牧場で生産した「KINJO BEEF」を提供する石垣牛専門店「焼肉金城」=2月15日、石垣市内

中国やドバイで和牛需要が高まっている

「去勢318キロ、40万からです、40万!」
「71万2千円! 46番さん購買!」

沖縄県宮古島の宮古家畜市場で4月19日、子牛のセリが開かれていた。市場にぎゅうぎゅう詰めに集められたのは、宮古島で生まれた生後8~10カ月の子牛428頭。牛の数に負けず劣らず、場内には若手からベテランまで畜産に携わる島人しまんちゅが勢ぞろいし、取引を動かしていた。

購買に参加するのは、山形、静岡、愛媛、兵庫、佐賀、宮崎、鹿児島など、全国各地でブランド牛生産を手がける約20軒の肥育農家だ。

牛の種付けを専門にする人工授精師の根間祐樹さん(42)は、市場の活気に確かな手ごたえを感じていた。

「コロナで国内の牛肉需要は減ったけど、昨年もセリに参加する事業者数は減らなかった。買い付け業者に聞けば、中国、ドバイ、ベトナムで和牛の需要が高まっているという。子牛の取引は衰えていない」

月1回開かれる子牛のセリ。全国各地の肥育農家が買い付けに参加する。昨年4月はコロナの影響で5年前の水準まで取引価格が下落していた。=4月19日、宮古島市・宮古家畜市場
筆者撮影
月1回開かれる子牛のセリ。全国各地の肥育農家が買い付けに参加する。昨年4月はコロナの影響で5年前の水準まで取引価格が下落していた。=4月19日、宮古島市・宮古家畜市場

目を見張る石垣、宮古の盛り上がり

石垣島など八重山諸島から、宮古、久米島、与那国島など離島各地の取材を始めたのは2月中旬。

長期化する新型コロナウイルス感染拡大が観光依存度の高い沖縄経済を痛めつけ、地元では、観光土産の原材料や特産品の供給を担う離島各地の一次生産者への影響が懸念されていた。生産者の生の声を聞くための取材だったが、想定とは真逆の感触を得た。

中でも、日本が誇る黒毛和牛の繁殖・生産拠点、石垣島と宮古島の“農業の力”は注目に値する。畜産の他にも、贈答品の代表格マンゴーの一大生産地であることに加え、冬場にとれる「宮古島メロン」がこの4月、銀座千疋屋にみそめられ、高級フルーツブランドの仲間入りを果たした。

沖縄の農業が盛り上がる背景には、亜熱帯の「この島」だからこその育ちの良さと、質を追い求める生産者たちの存在がある。目と鼻の先に、中国や韓国、東南アジア諸国など急成長する20億人のアジア市場が控える。2つの島とも拡張整備が進んだ空港を起点に「情報」と「鮮度」をダイレクトに届ける基盤が、島の優位性をさらに高めた。

一方で、付加価値の高い農産物とは対照的に、沖縄を代表する基幹作物のサトウキビ産業の行き詰まりは明白だ。農家は高齢化が進み、黒糖は販路を開拓できず過剰在庫が常態化している。収穫や製糖工場の稼働に不可欠な県外からの「援農隊」の確保に四苦八苦し、輸入糖との価格競争では到底優位には立てないのが実情だ。

領海や排他的経済水域を守る目的のもと、従来型の離島振興策を続けていては経済成長の端緒を逃しかねない。島の産業政策は、根底からの変革期を迎えている。