大規模な接種プログラムの課題

接種プログラムに問題が全くなかったわけではない。2021年1月28日付のニューヨークタイムスなどで「ニューヨークやボストンのエリート医学施設では優先されるべきでない若い研究職員までワクチンを接種している」と批判にさらされた。

だが病院は医師や看護師だけで成り立っているわけではなく、警備やカフェテリアの従業員などもいないと正常に機能しない。研究職もコロナウイルスの研究に携わっているという直接的なものから、職員の臨時配置換えで患者や職員にマスクを配布したり、集中治療室の医療行為でない部分をサポートするなど予備労働力として貢献していたため接種の対象としている。

実際に3月には感染の波がどの程度大きくなるか予想がついておらず、外国の医師免許をもつ職員に臨時で医療行為をさせる可能性なども真剣に議論されており、実際に日本の医師免許を持つ私の所にも可能性を告げる打診のメールが来ていた。

また、ワクチン接種への関心の高さから、開始後1日で予約アプリに5万件を超えるアクセスがあった結果、システム障害が生じ、12月17日に院長が謝罪に追い込まれている。順番に不満があったからか、内部からも「統制が取れていない」という告発があり、現役の看護師がCNNなどでシステムの不備を訴えた。

しかし、病院のコミュニティ全体を接種するというMGHの対応は一貫してぶれることはなかった。その後特に大きな混乱なく、接種が計画通り順調に進んだ。接種数や副反応などの情報が透明に伝えられていたことから不満は全く聞かれなくなった。

2月3日の時点で、1回目を終了した職員は98.4%、2回目を受けた人も36%に達し、今後数週間で職員の接種はほぼ完了する。

ワクチン接種の効果を左右する「スピード感」

条件設定にもよるが、このパンデミックを収束させるには50~75%程度の人が免疫を持たなければならず、この集団免疫をワクチンで達成するためには効果の高いワクチンをもってしても75~90%程度を接種する必要があると考えられている。

コロラド大のサイエンス誌のシミュレーションでも示されているように、高齢者を優先した接種で最も高い効果が得られるというコンセンサスから、マサチューセッツ州全体では医療従事者に次いで2月1日より75歳以上の高齢者の接種が開始された。

2021年2月6日時点でアメリカ全体でも1日130万人ほどが接種されている。果たしてこの速度は十分であろうか。

バイデン政権で新たにCDC長官に就任したロッシェル・ウォレンスキー先生のグループによるHealth Affairs誌の論文によれば、現在の人口の0.2~0.3%というペースではどんなに接種率を増やしても感染は10%ほどしか減少させることはできない。