このような症状があっても、一般的な検査ではメンタル的なものとされてしまい、自分が後遺症であることに気づかないことが多いということも問題になっています。また感染初期のころにPCR検査が受けられず、新型コロナの後遺症であることが証明できず、行政の補償が受けられない可能性も指摘されています。今後、後遺症に苦しむ患者さんのために、診断機会の拡充、補償体制の整備が求められます。

慢性疲労症候群については、脳の認知、言語で重要な部分に異常があることがわかっています。新型コロナのウイルス後疲労症候群の場合でも、嗅覚神経の損傷により脳の浄化作用が低下して、毒性物質が蓄積することにより脳に傷害が起きているのではないかという仮説が出されています(3)。このような知見から、有効な治療法が開発されることが期待されます。

ネガティブな感情のイメージ
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日本人の後遺症の実態

これまでの報告によると、後遺症は国によって発生頻度が異なっています。国ごとの診断基準の違いなどもありそうですが、人種による遺伝的な違いや環境の違いが関わっているようです。

日本人の後遺症の実態について、昨年10月に国立国際医療センターから貴重なデータが報告されています(4)。同センターに新型コロナで入院した63人について、退院後に電話インタビューでその後の経過を聴取したという研究です。日本で新型コロナの重症化患者を最も受け入れている病院の一つで、激務の中このような調査をされた医療従事者の方には、本当に頭が下がります。

インタビューの対象の9割は日本人で、65%が軽症の患者さんでした。感染時の症状については、発症してから60日後でも、咳:8%、倦怠感:16%、息苦しさ:18%、味覚障害:5%、嗅覚障害:16%で、120日後でも咳:6%、倦怠感:10%、息苦しさ:11%、味覚障害:2%、嗅覚障害:10%で持続していました。これはイタリアなどの報告に比べると、低い頻度です(5)

感染時にはなかった症状が、後から現れることもあります。上記の調査では、2名の方で感染後30日後あるいは92日後に嗅覚異常になったということです。脱毛も感染後によく起こる後遺症で、4分の1の方で平均約2カ月後から脱毛が始まり、2カ月半ほど続いたということです。感染後に脱毛が始まる原因については、まだ不明ですが、ほとんどの場合は、ある一定期間後に回復するようです。

後遺症が起こるメカニズム

これまでみてきたように、新型コロナの後遺症は多岐にわたっています。共通して言えることは、後遺症が起こっている臓器では、新型コロナウイルスの感染が起こっていて、感染した細胞は傷害を受け、さらには炎症が生じているということです。