公募増資ではなく劣後ローンを選択

もっともこうした構造改革策で将来の展望が開けているわけではない。国内線、国際線とも搭乗率は低迷したままで、上向く気配はない。資金繰りのための借り入れは増え、今年3月末に約8400億円だった有利子負債は9月末には1兆3000億円余りに膨らんだ。4割を超えていた自己資本比率も9月末には32%にまで低下した。

だからこそ公募増資に踏み切るものと株式市場関係者は見ていたが、ANAHDが出した結論は日本政策投資銀行(DBJ)や三井住友銀行などからの総額4000億円にのぼる劣後ローンの調達だった。

劣後ローンは返済順位が低いため、一部を自己資本に組み入れることができる。しかし当然ながら利息を払わなければならない。利率は平均7%前後。償却期限の5~7年後までに年平均800億円の元利返済が求められるという。

狙いはANAへの嫌がらせ?

ANAHDに「負け組感」が漂うのは、日航の公募増資が不要不急にも映るからだ。確かに再上場後、最悪の決算となる見通しで、調達資金の使途もはっきりとしている。

しかし2010年1月の会社更生法の適用申請で財務体質は改善され、9月末時点の自己資本比率はANAHDを10ポイント以上上回る43.6%。世界的に見てもこれだけ自己資本が充実している航空会社は少ない。

「日航が公募増資をした最大の狙いはANAHDへの嫌がらせだろう」と株式市場関係者は指摘する。投資家の多くはポートフォリオの観点から特定の業界の保有比率に上限を設けており、よほどの理由がない限り航空株の比率を上げることはない。今回の公募増資でその枠を日航が押さえてしまったことになるわけだ。

ANAHDは劣後ローンの調達だけではままならず、改めて公募増資で最大3321億円調達すると発表したが、その場合には難航が予想される。

鉄道業界で注目を浴びている西武

鉄道業界でも似たような動きがある。西武HD傘下の西武鉄道とプリンスホテルは合計800億円規模の優先株発行を検討しているとされる。

2021年3月期の業績は、連結最終損益が過去最悪となる630億円の最終赤字となる見通し。4~6月の運輸収入は前年同期比44%減、8月も28%減と苦戦。ホテル事業も厳しい。中核のプリンスホテルは4~7月に47ホテルのうち42カ所が休業し、4~6月期の客室稼働率は4.3%までに落ち込んだ。

資本の目減りで銀行との融資契約に盛り込まれたコベナンツに抵触する可能性も出てきたため優先株発行を検討しているのだろうが、この動きが報道された後も、株価は8月3日につけた903円の年初来安値を上回る水準で推移している。