ITで精緻な業務はできないという「妄想」

① 従来の仕事の進め方に固執しない

日本ではアナログの仕事における完成度が高すぎ、これがデジタル化の足かせになっているとの意見をよく耳にする。日本人は真面目で几帳面なので、完璧を求めており、ITではこうした精緻な業務はできないという理屈である。

厳しい言い方になるが、まずはこうした「妄想」を捨てなければデジタル化は絶対にうまくいかない。

ハンコを押す司法書士の手元
写真=iStock.com/kazuma seki
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日本のデジタル化が遅れたのは、アナログでの仕事が完璧だったからではなく、その逆である。アナログでの仕事があまりにも雑に設計されており、誰が何の権限でどの処理をするのか事前にしっかりと定めていなかったことが原因である。

日本人は論理的な思考を嫌う傾向が強く、事前に緻密な業務設計をしようとすると、たいていの人が「そんな面倒なこと!」と露骨に嫌な顔をする。結果として業務が始まってからイレギュラーな事態が頻発し、そのたびに多大な労力をかけて業務を処理せざるを得ない。

プログラムというのは自分で組んでみるとよく分かるのだが、ごくわずかでも曖昧で適当な部分があるとまったく動かなくなる。杜撰ずさんな業務設計で何とか会社が回っていたのは、全員が顔を突き合わせて、夜遅くまで残業し、労力をかけて事態に対処してきたからである。日本企業のビジネスはこうした犠牲の上に成り立っていたという現実を忘れてはならないだろう(結果として同じ生産を行うのに必要な労働力が増え、生産性が下がる)。

ビジネスのデジタル化を進めるためには、業務をまるごとシステムに移管しなければならず、そのためには従来型の曖昧な業務プロセスを全廃する必要がある。

システムを導入するにあたり、ハンコがなければダメだと言って、わざわざコストをかけてハンコの印影をシステム上に表示し、紙とまったく同じように稟議書の回覧をしていたという笑えない話がたくさんある。従来の業務は全否定するくらいの覚悟で当たらなければ、デジタル化は無理だと思ったほうがよい。