2社間で互いに200万円の支払いをしたことにした

彼の口座開設ツアーもまた、その頃には顧客が集まらなくなり、頓挫となっていたらしい。香港在住の別の人物から聞いた話では、彼は当初「口座のアフターフォローも行う」と謳って集客していたにもかかわらず、突然、顧客らに「業務終了」を宣言したのだという。

英語も広東語もできず、彼だけを頼って口座を開設していた顧客は、はしごを外されたような形となり、ネット上では元顧客らによる「被害者の会」のようなものまで発足したという。要するに、その当時から胡散臭い人物なのである。

筆者も2012年以来、彼とコンタクトは取っていなかったが、共通の知人から「給付金をもらって羽振りよさそうにしている」と聞き、かつてのeメールアドレスに連絡したところ、日本で再会の運びとなったのだ。

6月中旬のある日、彼は新橋駅近くのルノアールに、ヴィトンのモノグラムのクラッチバッグを小脇に抱えて現れた。8年前よりふっくらとしたものの、一昔前のヤミ金の取り立て屋のような風情は当時と変わらない。

中内さんの不正受給のカラクリはこうだ。

「前年度の帳簿上、2社間で互いに200万円の支払いをしたことにすれば、それぞれ200万円の売上と経費ができる。これで修正申告を出したんだけど、支払いと売上が同額で利益はゼロになるので法人税はかからない。売上が生じたことで、県税事務所に出していた休業届は解除になっちゃったから、均等割の法人住民税7万円はそれぞれかかっちゃうけど、200万もらえるなら安いもの。

両社とも決算は12月締めにしてあったので、本来の申告期限を3カ月くらい過ぎていたけど、新型コロナの特例で、何も言われなかったよ。同時に、個人事業主としての確定申告もした。そっちは実際に400万円ほど売上があったので、ありのままに申告したよ」

こうして、ペーパーカンパニー2社と個人事業主で、合計3件の確定申告を済ませると、受け取った確定申告書の控えを利用して持続化給付金を申請したのだ。

ペーパーカンパニー2社と個人事業主で計500万円を受給

「3件合わせて満額500万円分申請して、無事にすべて受け取ったよ。税務署行ったり書類作ったりで手間はかかるけど、こんな割のいい仕事はなかなかないよね。安倍ちゃんゴチ!」

その口ぶりからは、罪悪感も不正が露見することへの危機感も、まったく感じられないのだった。

「でも、俺なんて控えめなほうだよ。仮想通貨とかネットワークビジネスやってる連中なんて、節税のためにペーパーカンパニーを3、4社持ってることもザラ。8社分で申請出して、1社分はすでに振り込まれたっていう仲間もいる。俺の知り合いだけで、たぶん200件くらいは満額受給してるんじゃないかな。本当に金に困ってるヤツは一人もいないけど、くれるっていうならもらうよね?」

7月7日の読売新聞によれば、経産省は6月下旬から中小企業庁内の持続化給付金の審査を担当する部署に複数の専従者を配置し、弁護士などの助言を受けながら作業しているという。