工場を持たないが売り場を持つ“メーカー”

「私どもが、メーカーです」

イオントップバリュの朝永哲社長は、今年4月、名古屋で開かれたトップバリュ商品説明会でそう言い切った。

「我々は工場を持たないかわりに、売り場を持っています。そこにはお客様の声がある。年間37万件強の声がダイレクトに届きます。これが、他のメーカーとの決定的な違いです」とイオントップバリュ商品本部長で、トップバリュの商品開発責任者を長く務めてきた堀井健治氏が言葉を継ぐ。

「以前は当社も麺工場を持っていたことがあります。しかし工場を持つと、生産稼働率を高めるために、つくり手主導でモノをつくらざるをえない。それでは顧客第一主義を貫けない」

工場を持たないことで、本当の意味で顧客の立場に立てるのだ。

「『トップバリュ』の役割は、お客様がいま不安、あるいは不満に思っていることについて、イオングループがどう考えているのかを商品を通じてお客様にお伝えすることです。NBとPBを単純に比較するのではなく、使う人の声をきちんと聞き取った、つくり手の思いが伝わる商品ならお客様に支持され、長く愛されていくのだと思います」(堀井氏)

顧客の声に耳を傾けて生まれたイオンのPBは、メーンフレームの「トップバリュ」、プレミアム感を高めた「セレクト」、徹底したトレードオフで低価格を実現する「ベストプライス」の3階層に加え、サブブランドとして地球環境に配慮した「共環宣言」、健康に配慮した「ヘルシーアイ」、簡単調理で家庭の味を楽しめる「レディーミール」、農薬や合成添加物などの使用を抑えた「グリーンアイ」と、現在七ブランド。それぞれに置かれたブランドマネジャーはいずれも20~30代女性。消費者に近い視点で、さらなる商品開発を進めていく。

「将来は『トップバリュ』を、ライフスタイルを表現するブランドにまで育てたい」と堀井氏。たとえば「トップバリュ」のコーヒーはすべてフェアトレードのものにしたいと考えている。

「『トップバリュ』を買えば森を守れる。CO2の削減に貢献できる。近い将来必ず、そういったことがお客様の購入動機になってくると思います。ブランドを通して消費者の意思を表明できる、『消費者代弁機能』としての役割が、今後PBには増えてくるはずです」(堀井氏)

小売りにとって、PBは原価率が低く、利益率が高いうえ、顧客にも支持される、消費低迷のなかのいわば救世主だ。

(向井 渉(商品写真)、藤井昌美、白久雄一=撮影)