「同居する意味も婚姻届を出す必要もわからない」

都内在住のユキさん(37歳)とカズキさん(35歳)は、結婚して3年。同じマンションの別部屋に住んでいる。

「私は会社員で、彼は30歳のときに友だちと起業して、肩書は社長です。とはいえ、まだ小さな会社。泊まり込むこともあるし、なにより妻のことを気にしていちいち連絡したりするのはストレスになると思ったんですよ。だから結婚したいねと言う話になったときも、私から別居を言い出しました。

私自身、実家にいるとき、母親から『何時に帰ってくるの』とか『今日はどんなことがあったの?』とか聞かれるのがとにかくイヤで、家を飛び出してひとり暮らしをした経験があるんです。一緒に住むとどうしても気になる。だから最初から別居がいいと思っていました」

カズキさんはその意見を聞いて、少し戸惑ったという。彼もひとり暮らしが長かったため、身の回りの世話を妻にしてほしいという欲求はなかったが、結婚したら一緒に住むのが当然だと思い込んでいたからだ。そしてそんなふうに距離をとっていたら、いつまでたっても本当に夫婦になれないのではないかと危惧した。

「本当の夫婦って何よと思いました(笑)。自分たちに都合のいい生活スタイルを選んで何がいけないのか。そもそも、どうして結婚したら一緒に住まなければいけないのかまったくわからない。もっといえば、別に婚姻届を出す必要だってわからない」(ユキさん)

「好きな人と結婚するのは当たり前、結婚したら同居するのも当たり前、子どもをもつのも当たり前だと決めつけていたんです。でも彼女は、そんな当たり前はどうでもいい、あなたはどうやって生きていきたいのかと迫ってきて。初めて真剣に“自分のプライベートな人生”について考えたような気がします」(カズキさん)

「縛りつけ合わないと安心できない愛情って何だろう」

話し合った結果、ふたりとも仕事を優先したいと意見が一致、別居婚を選んだ。ユキさんは平日が休みなので、カズキさんが合わせることが多い。最初は電車で40分ほどかかる場所に住んでいたが、賃貸住宅の更新時期にカズキさんがユキさんの住むマンションに越してきた。

「同じ建物に住んでいる安心感はありますね。でもお互いに仕事の日は連絡を取り合わない日もあるし、結婚したことで束縛感を覚えることは一切ありません」

万が一、どちらかが婚外恋愛に陥ったらどうするのかと友人に聞かれることもあるそうだが、それは同居していても同じリスクがあるとユキさんは言う。

「縛りつけ合わないと安心できない愛情って何だろうと逆に思いますよ。ただ、人との距離のとり方は個人差が大きいと思う。だから別居婚するにあたっては細かなルールを作ったほうがいいカップルもいるんじゃないでしょうか。うちは本当に適当で、その適当な感じがふたりとも心地いいんです」