安倍総理への「逆張り」がすぎる

2つ目の理由は、石破氏のキャラそのものにある。安全保障政策のみならず、石破氏が勉強家で、真面目すぎるといえるほどのオタクであることは間違いないだろう。野党時代に民主党の失政の数々を追及する姿勢は迫力があり、その理論派の注目は高かった。

一時は「石破総理誕生か」と思われた2012年総裁選で支持を訴えた姿にはオーラがあり、しわのついたスーツを着続ける外見を気にしない部分にも共感はできた。しかし、なんだか怖く、そして暗い。ただでさえ、コロナ禍で憂鬱な日々を送っている中で、メディアを通じて発信される言葉の数々が耳に入るたびに、さらにめいってしまいそうになる。

最近では、安倍総理に対する「逆張り」色が強く、米軍普天間飛行場移設問題をめぐり「(辺野古への移設が)これしかない、とにかく進めるというだけが解決策だと思っていない」と表明したり、総理の専権事項である憲法7条に基づく衆議院解散に「今なら勝てるだろうというのは、かなり憲法の趣旨に反したもの」と反対したりするなど、ウイングを広げすぎているようにも映る。自らが総理大臣に就いた時の手足を縛ってしまうのではないかと心配になるくらいである。

自民党担当の全国紙政治部記者は「4度目の挑戦は絶対に負けられない戦いであると思っているのだろう。しかし、最近はまるで『評論家』のようで、安倍政権に批判的な与党議員のコメントを求めるとすぐに言ってくれる。その辺が自民党支持層からの人気がまだまだ足りないところなのに分かっていない。どこか鳩山由紀夫元総理を彷彿ほうふつとさせる」と苦言を呈する。

そもそも完全な総裁選が行われない可能性

石破氏が総理・総裁に就けない「無冠の帝王」に終わると見る最大の理由は、決定的といえるかもしれない。安倍総理の自民党総裁任期は来年9月末まであるが、その前に安倍氏が退き、コロナ禍で「完全な総裁選を実施している余裕はない」と判断された場合、いつものような総裁選が実施されなくなるためだ。その場合、党則では国会議員による「両院議員総会で後任を選ぶ」ことができるため、いきなり決選投票が行われるような状況になる。

石破氏が最近、二階俊博幹事長や菅官房長官ら影響力のある「キーマン」に秋波を送っているのは、その危機感の表れだろう。7月2日のBSフジ番組では「総裁を選べるのが最大の党員でいるメリットだ。それを行使させないのは党員に対する背信行為に等しい」と強く牽制している。